私が快適と思うのは気温30度前後で熱帯仕様人間です。よって冬は天敵とも言え、寒さほど「こわい」ものはありません。うがいや手の消毒をいくらしても風邪はもちろん、インフルエンザにはなるし、乾燥につけこんで皮膚炎もやって来ます。日本ではほとんどどんな商品にも季節性があり、ありがたい事に業界人にとって夏物の展示会は冬行われます。しばし夏の香りに触れ安らかな気持ちになれるのは本当に嬉しい限りです。
日本のクライアントの夏物展示会は前回に比べお客様が20%増えました。毎回来客数を更新しており、売上も右肩上がりの不況下には珍しい企業です。関東圏にある社員数20名余りの雑貨メーカーで、毎シーズン膨大な数の新製品を展示会に送り出します。展示会でお客様の意見を徹底的に聞き、売れそうもないものは没、希望は新たな商品企画へと生かしていきます。「魅力的な商品であれば営業マンはいらない」という社長の方針で、営業を専門としている社員はほとんどいないどころか、展示会での予約で売り切れてしまう商品も多々あります。
100年に一度の大不況で大企業といえども淘汰やリストラを免れませんがユニークな商品やサービスを提供している小さい企業はそのフットワークの軽さ、コストの安さで堂々と生き残っていくような気がします。
次にアセアン諸国のアクセサリーとファッション・グッズ展に行ってみました。2008年 2月14日号「春の雪、南への回帰」で触れたブルネイ女性が来日しているからです。彼女とは2004年以来ブルネイと日本で何度会ったか数えきれないほどです。彼女のような女性起業家はブルネイではお金持ちの奥さんのステータスシンボルで、「趣味と道楽」ビジネスの王道を行っているような気がしますが、彼女の繰り広げる淡い色合いの中のイスラム模様の繊細で上品な刺繍の世界は見る者を現実世界から忘れさせてくれます。
「あなたが来るのだけを待っていたのよ。」と冗談めかして挨拶をした彼女は新作を見せては私の意見をこまごまとノートに記します。この日改めて気づいたのは英語による色の表現の多さです。「これはティー・グリーンよ。」「え?これは日本人から見ればベージュですよ。」確かに淡い茶色にかすかにグリーンが混じっているような色で、あちらの(紅茶ではない)お茶はこんな色です。「これはオリーブ色」「日本でもオリーブ色でわかりますが、こちらのほうが日本のグリーン・ティーの色なんですけどね。」そこで彼女はまたモソモソとメモ。「聞いておいた方がいいの。商談をする際にお互いにわかりやすい方がいいもの。」日本には平安時代からの特有の色の名前がありますが、戦後の教育ではシンプルでわかりやすい色名で統一されており、一口に「青」と言っても範囲が広く、人によっては緑や紫との境界が微妙にずれる位あいまいな色の呼び方をしています。一方、英語の細かな色名は動植物から取っているものが多く、日本人にはなかなか理解しがたいものがあります。たとえば、ティールは青緑の一種ですが、鳥のコガモをティールと言い、雄の顔のあたりにこの色があります。
ラオスの織物のブースにはフランス人が経営している企業が 2社ありました。彼らはデザイナーでラオスの布に魅せられ現地に住んでいます。伝統的な織物は日本の昔の和装用織物を想わせる色合いですが、技法はそのままにしてヨーロッパ人特有の甘やかな洗練された色使いへと変化させています。ラオスはもちろん、カンボジア、ベトナムなどでも西洋人が住み着いて商品開発をしているケースを多々見かけます。日本人の場合は、同じアジア人であり固有の伝統工芸を持つだけに、一般消費者にとってアジア雑貨はいつまでも「チープな土産物」の域から卒業できないままで寂しくも思います。
こうやって夏の香りに触れながら、指折り数えて春の到来を待つ私です。
河口容子
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