[95]架空領収書
前号[94]読者Q&A『架空領収書の発行を強いられた』の補足です。
架空の領収書を発行した場合に、罪になるのかどうか、気になるところです。普通に考えれば罪になりそうなこの所業ですが、二つに切り分けて考える必要があります。
まず、実在しない名前で領収書を発行した場合。本当の意味の架空領収書ですね。これは全く罪になりません。実在しない他人名義を使用して文書を作成しても文書偽造罪とはならないのです。
これに対し、実在する他人の名前で領収書を発行した場合は、私文書偽造罪(159条)になります。
(刑法159条1項)私文書偽造行使等の罪
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
これによれば「他人の印章もしくは署名」となっているので当然実在する他人と考えることができます。
ところが、ネットを検索してみると、署名が架空であっても、それを行使目的の場合は、罪になるという判例もあるようです。
この根拠は、実在だろうが架空だろうが、行使目的の場合は、見せられたほうが架空か実在かは判断できないからだとするものです。してみれば当然の判断だと思います。要は実害があれば、罪になるとするものでしょう。
ということで、安全を見て「架空の領収書は発行しないほうがいい」ということになります。
なお、例として提示する文書中によくみる「みほん」の文字。別に「みほん」と入れなくても一目すれば「みほん」とわかるのにあえて入れるのは、上記条文にあたる「行使の意図」がないことを主張するためなのです。特に有価証券(紙幣、切手、収入印紙、株券など)の場合は「みほん」を入れないと大変なことになります。
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