[32]ラックス-LUXMAN

2017年1月2日

1970年ころのオーディオアンプは真空管式からトランジスタ式への移り変わりの時期で、各社しのぎを削って新製品がたくさん発表された時期でもあります。これは日本だけでなくマッキントッシュやマランツ、クワドなど海外の有名なメーカーでさえトランジスタ式に力を入れはじめていました。しかしその中でかたくなに真空管式のアンプをじっくり作っていた日本のメーカーがありました。ラックスがそうです。

(ここで若い人に一言。ここでいうラックスは石鹸メーカーではありません。またマッキントッシュはパソコンのことではありません。ともに昔ながらの魅力的なオーディオメーカーです。)

なぜラックスが真空管のアンプを作っていたかというと、それは「音を増幅する」という命題には「真空管式が合っている」からという単純明快な理由によるからです。

アンプには大きくプリアンプの部分とパワーアンプの部分に分かれますが、特にパワーを必要とするパワーアンプ部はトランジスタの威力は魅力ですが、プリアンプの部分は何もトランジスタ式にする理由がない、ともいえるのです。そもそもラックスは高級品のメーカーでプリアンプとパワーアンプを分けて作っていたセパレートタイプのアンプメーカーでしたので、真空管式のプリアンプにこだわっていたといえると思います。

トランジスタ式のアンプはメーカーにとってそれなりに魅力があったのも事実です。発熱が少ないので経年変化に対応しやすい、製品を小さくできるなどのメリットです。しかし、オーディオ本来の性能面からいえばトランジスタ式は電源の電圧が低くダイナミックレンジがとりづらい、回路と回路の連携に修正が必要でそのために回路が複雑になる、安定性に問題が生じやすい、などのデメリットが多くあります。

それに比べ真空管式はもともと特性が良く、回路も簡単で大げさな補正も必要ない、ということでオーディオ本来の目的を達成するには向いているといえるのです。そのような理由があるからこそ、今なお現役の真空管式のアンプが健在なのでしょう。

ちなみにダイナミックレンジとは、小さい音から大きな音まで忠実に再現する能力です。ダイナミックレンジを大きくとると今度は相反してS/N比が悪くなるという宿命を負っていて、これらを両立するのがオーディオアンプメーカーとしての最大の課題であったわけです。

しかし、現状を見回しますと、携帯電話をはじめ便利な機器はすべてトランジスタによる功績といえるものばかりです。当時のトリオ(今のケンウッド)やサンスイ、パイオニア、ソニーなどがトランジスタ式のアンプで競争していた結果が現代につながっていると実感できます。

ラックス製の真空管の携帯電話なんてあったとしても大きく重たくてサマにならないでしょう。けれど切れにくいとか、感度とか、音質はけた違いに良いかもしれません。

今でも健在LUXMANウェブサイト

2003-03-04