[15]マランツはツマラン?
今はどうかわからないが時代劇作家の五味康祐さんは、1967年ごろは東京の練馬区に住んでいた。芝生畑の広がる、まだまだ田園風景が残っている新興住宅地の大泉学園の一角に、そのお屋敷は建っていた。さすが売れている作家であります。しかし奇妙なことにその屋根には2本のFMアンテナが屹立している。わざわざ2本とは?
五味さんは大の音楽マニアで、当時我々学生には絶対に手の届かない最高級品を揃えていたらしい。その2本のアンテナのうち一本はマッキントッシュ用。もう一本はマランツ用だとあとで聞かされた。聞かされたといっても直接話をしたわけではなく、雑誌の対談でそういっていた。
しかし贅沢なハナシである。FMアンテナは普通一本で足りるし、チューナーを二つもそろえるとは贅沢のきわみ。しかも、当時はFM東京とNHKしか放送していない。で、どっちが良い音かというとマッキントッシュだという。マランツはツマランなどと寒いしゃれを飛ばしていた。
しかし、当時の評判ではチューナーはマランツのほうが上であり、実際性能もマランツのほうが上だったと思う。五味さんはマランツよりもマッキントッシュのほうが好きだったということではないかと思う。オーディオは良い悪いではなく、好き嫌いの問題なのだ。
ここでいうマッキントッシュは、コンピューターのマッキントッシュではない。若い人は知らないだろうが、アメリカでマッキントッシュといったらダイジェスティブビスケットかブルーアイズのアンプメーカーと相場が決まっている。
マッキントッシュという会社は、今でも健在で、主にカーオーディオの市場に活路を求めているようである。しかし、本業のホームオーディオも忘れてはおらず、今でも昔と同じデザインで、ハイエンドユーザー向きの製品を作っている。マッキントッシュといえば黒いガラスのフロントパネルにブルーに浮かぶメーター類と昔から決まっている。
一方マランツは、シャンペンゴールドのパネルがおなじみである。国産メーカーがアンプ類に黒を使うのはマッキントッシュの真似、シャンペンゴールドを使うのはマランツの真似といって間違いない。
2000-08-26
2011-03-20追記:
五味康祐氏は1980年4月1日に亡くなられました。
(1921年12月20日 – 1980年4月1日)