[34]MP3
音楽を媒体に記録し、それをいつでも再生できる手段を得たことは人類史上特筆に値することです。コンサートに行かなくても自宅の一室で音楽を楽しむことができる。そして自宅という限られた空間で、いかにコンサート会場の雰囲気を再現するか、メーカーもユーザーも試行錯誤のバトルが始まる。オーディオマニアが誕生する所以です。
音楽を信号として記録する、そしてそれを再生するという技術はいろいろ変わってきました。一番最初の技術はエジソンによる錫箔円筒式蓄音機「フォノグラフ」の発明でしょう。これは約1分間の録音が可能でした。オーディオ元年ともいえる1887年のことです。
その後円筒形の録音媒体が平板になり、1898年にはポールセンによる鋼線式磁気録音機が発明されました。磁気テープがドイツで発明されたのは1938年のことですから、長い間録音は手のかかる不便な作業であったと思われます。ちなみに日本でも1960年ころまでのテレビ放送はほとんどが生放送。録画するにも機材が無かったのですね。
さて、これらの録音技術は媒体を回転させトレース針あるいは磁気ヘッドで「なぞる」ことによりその信号を取り出してきたものです。長い信号を「列」で並べ、それを順番に取り出すというのは感覚的にも理解できます。信号自体がアナログLPからデジタルCDに変わっても媒体を回転させ「なぞって取り出す」感覚は同じでした。
ところが、最近の録音技術は「なぞらない」ものが多くなってきました。音楽をメモリースティックに保存して、MP3プレーヤーなるもので簡単に聞けるのです。媒体を回転させる必要が無いからメカが無い。当然小さくてすみます。これはエジソン以来の大きな改革といっていいでしょう。
MP3というのは、MPEGというカラー動画を圧縮伸長する規格があるのですが、そのなかで規定している音声圧縮規格の一つで、正式には「MPEG1AudioLayer3」といいます。
MP3はMPEG技術としては最新ではありませんが、音楽CDと同様の音質を保ちながら圧縮率に優れる方式なので音楽分野では注目されている技術です。
たとえばCD同じ品質の音声ファイルを10分の1程度に圧縮することができます。
CDで5分程度の音楽データは約50MBになりますが、これをMP3に変換すると約5MB程度のデータになります。64MBのメモリースティックなら12曲入るというわけです。音質はサンプリング周波数の関係でCDと同等です。CDと同等ならばメモリースティックのほうが何かと便利なのは自明の理。
ちなみに圧縮の方法は例によって人間の耳で聞き取れない部分をカットし、その空いた間隙にデータを押仕込む方法です。人間の耳で聞き取れない部分をカットするのですから聴感上はわからないはずなのですが、世の中にはそれを察知し「MP3の音は良くない」と主張する人たちもいるようです。アナログLPからデジタルCDに移行するときにも同じ論争がありました。いつの時代も人間の耳はとても優れているようです。
2003-09-05