[122]雀荘にて

今号は、たまごやライターのサクラジロウさんの寄稿でおおくりします。

■雀荘にて

1・大声を出さないで下さい。
2・牌を卓に叩きつけないで下さい。
3・『ポン』『チー』は大きな声で。

雀荘にはだいたいどこも、上記のような注意書きがしてある。
ご存じの通り雀荘とは、麻雀をするところだ。

麻雀をされない人のため、上の注意書きを社会生活に当てはめるとするならば、

1・人がたくさん集まる場所では、大声を出して騒がないで下さい。
2・公共の施設は自分だけの物ではありません。大切に使いましょう。
3・挨拶は大きな声でしましょう。

といったところか。

雀荘の中心客層は中年男性である。
その中年男性にむかっての注意書きにしては、いささか幼稚すぎやしないかと思われるかもしれない。
例えるなら、30才を越した息子に『牛乳を飲まないと背が伸びないよッ!』
と言っているような母親の老婆心みたいな感じだ。
『うん、わかったよお母さん。牛乳飲む飲む。』
という30男も恐いものがある。

だが、このような幼稚園でも教わるような簡単な注意を守れない大人は多い。
かく言う私も、勝っている時は大声で騒ぎ、負けが込んでいる時は『ポン』も『チー』も泣き入りそうなほど、か細い声になり、会心のアガリの時は、アガリ牌を思いっきり卓に叩きつけ周りにアピールする。
大人たるもの自らの不作法を天真爛漫と勘違いしてはいけない。

雀荘のお客さんも普段は行儀の良い人達であろうが、場所が鉄火場という非日常であるから、日頃会社でみせない素の顔を見せるのかもしれないし、負けこんで熱くなり思わず素の顔がでてしまうのかもしれない。
なんたって3倍満(ポーカーでいうストレートフラッシュのような、かなり大きい役です)
をあがった時など、指を折って、役を数えるとき、指先が震えたりする人もいるくらいだ。
大の大人の指先が震える姿を見られる機会なんて、そうめったにない。

『いつまでも何かに熱中していて少年のような心を持った男性が好き』

という女性がいるが、雀荘に行けばそういう男性はたくさんいる。
みんな小さな白い牌に目をキラキラと輝かせ、麻雀に熱中している

麻雀には『チョンボ』というものがある。簡単に言うとマナー違反をした物に対する罰則である。罰は簡単明瞭、自分の持ち点を相手に渡す。
ローカルルールがあるので、そのマナー違反の内容はその土地や世代によって少しずつ変わってくる。

思えば社会のマナーもそうである。
東京ではエスカレーターで右側は追い越す人用となっているが、地方では友達同士が仲良く横に並んでおしゃべりしながらエスカレーターにのっている。
フランス人のソムリエがワインをすするのは優雅だが、日本人の江戸っ子がそばをすするのはマナーが悪いといわれる。

これはマナーが良い悪いという問題ではない。
マナーは公共の場において必要とされものだから、麻雀のよう土地に根ざしたものや世代によるローカルルールがあってよいのだと思う。
エスカレーターに関しては東京では人が多いから必然的にそうなったので、人の少ない、あまり時間に追われることもない田舎でみんな左に並ぼうとするのも滑稽である。
江戸っ子がそばの「のどごし」を楽しむ為、噛まずにすするのは日本では粋とされる。

だから自分の物差しでマナーを強要するものではない。
世代や土地柄でマナーや公衆道徳の枝葉が変わろうと、その根幹となる他人に対する気配り、心遣いというものは普遍のものである。

しかし、おしなべて麻雀が強い人はマナーが良く、牌を打つその姿は美しい。

多謝

サクラジロウ

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