第28回-あいさんのお仕事
こんにちは、稲垣尚美です。10月になってすっかり秋のはずですけど、暑いですね。未だに半袖です。
うちの施設にあいさんという方が、みえます。目が、見えないんです。歩くこともできません。耳も遠いし。三重苦みたいなあいさんですが、いつも仕事をしています。
いつも糸巻きをしたり、機織をしたりしているんです。私達には、見えない糸で。起きている間中、車椅子の上で自分の肩くらいの高さまで腕をあげていつもいつも糸巻きをしたり、機織をしたりする仕草をしています。糸巻きって実際には、見たことないんですけど、あいさんの仕草から糸巻きだってはっきりわかります。機織も同様です。たまに「ここを結んで」と大きな声で呼ばれます。だから、見えない糸をくるくるっと結んであげる仕草をしてあげるとあいさんは、見えない眼でそれがわかるのか、「ありがとう」と言って、仕事の続きをはじめます。
あいさんの作ってる布地は、きっと物語の「裸の王様」にあるようにある一定条件を満たした人にしか見えない布地なのでしょう。いつかその布地を見てみたいと思いつつ、ちょっといたずら心を出してあいさんの手と手の間にあるはずの糸にはさみでチョキンと切る仕草をしながらあいさんの耳元で「チョキン」と大きな声で言うと「あ~・・・・・切っちゃだめだよ」と怒られます。慌てて元に結ぶ仕草をしながら「ごめんね」と謝ります。
何年もかかって作られた反物は、どのくらいの長さになっているのでしょうね。
2002.10.08