第2回 スタッフを困らせるYさん(その2)
そのYさんが、御入居されて何日かが経ちました。ナースコールが、他の方よりも多いのが目立ちましたが、それほど問題視していませんでした。きっと病院を転々とされたんだと思われるのが、スタッフ全員のことを、『看護婦さん』と呼ぶことでした。女性職員も、男性職員も、看護婦さんと呼ばれていました。
最初は、とても気のいい方と言う印象で、寂しがりや、話好きと言う印象がありました。その本性を見せ始めた最初のターゲットは、私でした。他のスタッフには見せない、心の奥に潜んだ本当のYさんを、私にぶつけてきました。
最初は、ナースコール地獄でした。Yさんは、後にハッキリしましたが、ナースコールが、スタッフを困らせるには、十分なおもちゃであることを、認識していらっしゃいました。本来なら、命を繋ぐ生命線であるはずナースコールを、スタッフを困らせるための道具として使い始めました。
まずは、「牛乳を頂戴!」そんなコールから始まります。糖尿病のため、1日1300キロカロリーと言う、食事制限がありました。そのため、1日に飲める牛乳は2杯まででした。本人も、その事をしっかりと把握しています。しかし、私だけにそんな欲求を投げかけてきます。ルックスから、自分の要求にNoと言えないタイプだと判断したと思われ、繰り返し、繰り返し、ナースコールは続きました。
「牛乳頂戴!」
「牛乳は、カロリーオーバーになってしまうので、後は午後のお茶の時にしましょう。」
そんな会話を、3分に1回行っていました。私以外の人が、ナースコールに出ると、「なんでもない」そう言われます。私だけに、そんな要求を出すのでした。担当御入居ではなかったでしたが、受け入れのヒアリングを自分がしているため、逃げられなかった事もあります。とにかく、1300キロカロリーという数値が、自分の視野を狭くしたかもしれません。毎日、毎日、コールとの闘いが繰り広げられました。
私が、コールと闘っているのに、コールがうるさいからと、パンや牛乳を持っていってしまう厨房スタッフを見て、自分が何のために苦労しているのかが、解らなくなりました。そして、Yさんは、次なるイジメを考えたようでした。その時は、偶然だと思ったのに、そのイジメは、毎日続くようになりました。まるで、私を狙っているかのように。
2003.2.23
永礼盟