第13回 新しい人
こんにちわ。永礼盟です。ご購読ありがとうございます。
我が施設、我がホーム。大分、雰囲気が変わりました。ご家族からは、相変わらず異動が多いのねと、嫌みを言われます。異動が多いのは、我々のせいではないのですが、どうしても近くにいる分、お叱りを貰うことが多いです。まぁ、今回は疥癬という病気もあり、特別だと思いますが。
さて、職員と施設長が入れ替わって、どんな風に変わっていったかと言うと、雰囲気が若くなった感がありました。施設長も私とそう変わらない年で、二十代後半。そして殆どが二十歳前半の年です。箸が転がっても笑ってしまう年頃。そりゃぁ、明るくもなるかなと、日々感じております。
さて、その新しい施設長。こないだの子供の日に、歌を披露して下さいました。歌った歌は、「鯉のぼり」でした。お昼ご飯が終わった食堂で、まだ少し、入居者様が残って居られる所で、さり気なく、その芸は始まったのです。
屋根より高い 鯉のぼり大きい 真鯉はお父さん
見ても分かる通り、歌詞は、鯉のぼりです。しかし、メロディを聴くと、なんとなくおかしいのです。介護職員を含め、入居者もその歌に、???と言う反応をしていました。職員から、「施設長の歌、なんかおかしいですよぉ。」そう、突っ込まれて、「そんなことないやん。」そう得意気に歌い続けます。
小さい緋鯉は 子供達面白うそうに 泳いでる
やはり、どこかおかしいのです。御入居様から、もう一度、歌ってみてと、リクエストが入ります。「ええよ。何度でも歌うよ。」
屋根より高い こいのぼり
やはり、???です。職員の1人が、「そのメロディって、ひな祭りの歌ですよ。」と突っ込みが入ります。そうです。歌詞は、鯉のぼりなのに、メロディは、ひな祭りなのです。
私は、なるほどなと思いました。鯉のぼりの歌詞を、ひな祭りのメロディで歌いきる事が出来るのです。この施設長はこのネタで毎年、御入居と職員の心を引きつけてきたのが分かりました。今年も、施設長の思惑どおりで、御入居から笑いながら、「それはひな祭りの歌。鯉のぼりは、このメロディ。」そうして、本当の鯉のぼりのメロディを口ずさむ御入居。それに対して、施設長は、「そのメロディは、シャボン玉やん。」そう吐き捨てて、ひな祭りのメロディで、鯉のぼりを歌い続けます。
手を、違う。違う。と降る御入居様に、「え~、小島さんなら分かると思ったんやけどなぁ。同じ関西やん。関西では、こう習うんよね?」と御入居も巻き込んで、ひな祭りと鯉のぼりを混同させようとしています。もう既に、施設長の手中です。「じゃあなぁ、本当の鯉のぼり歌ってみぃ。」その問いに、職員全員で歌うと、「それって絶対シャボン玉やん。」すると、シャボン玉の歌を歌う御入居。「違う。違う。絶対違うって。関東の歌がおかしいねん。」関西出身の小島様が、「あんたが間違っとんのや。」と突っ込まれたのが、とてもおかしかったです。
施設長に、してやられた時でした。その数十分、とても温かい空気に包まれました。今でも、「鯉のぼりはこうよね?」と、本当のメロディを、施設長の前で歌う小島様。とても可愛らしい姿だし、こうして、入居者を引きつけてしまう施設長のテクニックに、雰囲気の変化を感じぜずにはいられませんでした。我がホームに、5月の風と温かい空気が舞い込みました。
そんな施設長を、職員も入居者様も、大好きになってしまいました。私は、率先して馬鹿を出来る施設長に共感をもったのですが、最近、その鯉のぼりの芸が、本気で間違っていたことが判明しました。今となっては、それが本当に間違っていても、テクニックでも、どうでも良いことです。我がホームに、ほんわか優しい雰囲気に包まれたことだけが、事実として残っているのです。
これが、ごり押しでないケアなのだと、とても共感しました。それぞれに、都合良く、心地よく、温かい気持ちにさせてくれる。それが、ケアであり、サービスかな?と。
そんな施設長のことを、職員も入居者様も、大好きになりました。
2003.05.21
永礼盟