第48回 帰ってくる人

2018年8月31日

こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。風邪が流行って来ていますね。こじらせないように注意したい物です。

今年に入って少し落ち着いた感のある我がホーム。退院が決まった入居者の受け入れで、俄にゆれています。入院されていた方が、ホームに帰る事になったのですが、医療行為が必要な状態での帰ホームなので、カンファレンスが行われたのでした。

その医療行為とは、『吸引』です。朝、昼、晩の食前、食後に吸引を行わなくてはならないのです。その行為を、我々介護職員が行う事についての意思確認から始まり、医療行為を行うにあたっての問題点、救急対応の経路、法律違反を犯す事への矛盾等、リーダーから職員、職員からリーダー、会社の営業を含めて話し合いました。

介護施設と医療行為。切っても切り離せない問題です。お元気な状態で入居されても、入退院を繰り返し、医療が必要になるケースは少なくありません。特に、吸引や胃ろうけいかん、インシュリンの注射、血糖値の検査等は、自分が触れた事のある医療行為でした。

ここで、「はっ?」と思われる方、団体があると思います。ヘルパーが医療行為?そうです、我々のホームでは、介護職員が医療行為を行っているのです。特定施設ですので、勿論ナースは常駐しています。しかし、ナースの勤務時間は、9時から18時。この時間内の医療行為はナースの仕事ですが、ナースの公休日や夜間は、介護職員が医療行為を行わなければなりません。

今回の受け入れの問題は、『吸引』を行わなければならないと言う一点でした。他の介護施設がどうやって医療問題と取り組んでいるかが興味深い所ですが、我がホームでは、入院し医療が必要な状態でも、受け入れる事がしばしばありました。それは、ご家族の強い願望からなのです。

何が、人間らしいかは正直解りません。ご家族は、病院と老人ホームを比べると、比較的老人ホームで生活してほしいと願うようです。時間で、機械のように扱われる施設より、入居者それぞれに合わせたケアを行う有料老人ホームで生活してもらう方が好ましいと考えられるからでしょう。

リーダーの意思は、もう固まっているようでした。受け入れる方向でカンファレンスを誘導しているのが強く伝わってきました。我々職員の中から、強い反発がありました。「会社は、我々に法律違反を押し付けようとしている。万が一、職員が吸引を行っていて事故が起こったときの責任はどうなるのか?」リーダーの受け入れる理由は、よく解ります。ご家族がホームで生活する事を熱望している。もし、自分の親が同じ状態になった時に、大人数の入居者がいて、機械のように扱われたら、俺は耐えられない。そんな熱い思いからの物でした。それを職員に落とそう、落とそうとするのが痛いくらいに伝わったのです。

吸引の知識を持つ事によって、今入居されている方のケアの幅が広がると言うのも理由の一つでした。嚥下が困難で、常にゼコゼコしている方がいらっしゃいます。誤嚥から窒息状態になった時、目の前に吸引機がある。君たちならどうする?という投げかけがリーダーからありました。

論点のすり替えです。このすり替えに、すぐに異論が唱えられます。「生死に関わるときに、吸引をするかどうかは、別問題でしょ?我々が今話している事は、今後その行為を必要な方を受け入れるか否か?であって、法律違反を犯す事を押し付けられるという事に、会社はどうお考えなのですか?」一人の職員は強い意志を見せました。その通りなんです。本当は、受け入れてはいけないのだと思います。その行為が医療行為である以上、我々の資格ではしてはいけない行為と定められているのですから。

吸引やインシュリン注射、胃ろう等は家族が行うなら問題はないそうです。我がホームは、入居されている方全員を家族と考えています。こうして文章にすると宗教っぽくて好ましくないんですけど、そんな考えから、受け入れとなると思われます。

ご家族には、医療を行うにあたっての問題点、職員がその行為を行う事、万が一の経路。全てを了解してもらう事で、受け入れとなるようです。そうすれば、家族が行う事と同じ行為になると説明されました。おそらく医療行為を行っている介護施設は多いでしょう。なぜならば、必要不可欠だから。それを、資格保有者が行えば全く問題はありませんが、殆どが資格なしで行われていると思われます。介護施設で、24時間看護士が常駐する施設はあまり聞いた事がありませんものね。勿論24時間態勢で看護と介護を実現させているホームもあるとは思うのですが、私の親が、祖父が、もしもホームに入居せざるを得なくなった時、自分の稼ぎでは、入居金さえ払えないと思われます。ましてや24時間の看護サービスのあるホームなんて到底夢のまた夢。老人ホームという言葉が身近に聞こえるようになった昨今、実情はまだまだ一般的ではないように感じます。

『自分の親に良いサービスをしてもらいたい』『今後、その経験が他の入居者にも生きてくる』『法律違反を押し付けるのか?』『医療を行いたくて介護をしているのではない』『二度と、死につながる救急対応をしたくない』リーダーの思い、介護職員の思い、『医療行為』という事が、これだけ我がホームを揺らしています。

医療は受けません。とキッパリ切り捨てられない老人ホームのサービス問題。せめて簡単な医療行為をヘルパーが出来るようになれば、可能性が広がると思うのですが…..

ホームで行われている医療行為については、また改めて書いてけたらと思っています。

『介護で何か人の役にたてれば、それが自分が自分でいても良い証のような物』沢山邪念がある中、自分に尋ねた時の答えは、ここに行き着くと思われる。きっと戻ってこられるこの入居者に良いサービスが出来るよう、覚悟を新たにする自分がいるのだった。

2004.02.20

永礼盟