第45回 新しい風

2018年8月31日

こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。

約一年と言う月日をともに過ごした仲間が、もうすぐいなくなってしまいます。自分の夢に向かって新たな道を選択したことで、一人の職員が我がホームを去ることになったのです。ちょうど今、その引き継ぎが行われている時期で、我がホームに新しい職員が来てくれました。

男性職員ですが、物静かで入居者からとても好評です。毎日同じ人間ばかりみているので、飽き飽きしていると言う声を聞きました。我々職員もそうなのですが、新しい風が、とてもフレッシュな気持ちにさせてくれているようです。

何よりも、彼のケアに忘れていた初心を思い出します。足を止め、入居者と向かい合う姿勢。忘れていた大切な物に、ドキッとさせられました。良い刺激を受けながら、引き継ぎ業務が行われています。

足を止めて、入居者と向き合う。当たり前のようで、結構難しい事です。当然持たなくてはいけない姿勢だろ?と言われてしまうと思うのですが、日々の業務に追われると、どうしても入居者と接する事がむずかしくなってしまいます。どの方も、寂しいと言う気持ちをお持ちから、長話になってしまうため、業務の途中でそういう状態になると、どうしても焦りの気持ちが出てしまうのです。

そんな焦りの空気の中、足を止めて入居者に向き合う姿に、我々も安心して業務をこなせるのでした。理数系な風貌からは想像できないおっとりケア。癒し系がぴったりはまるキャラクターで、入居者だけではなく、職員も癒しを貰っています。

独特の間(ま)があるんです。質問してくる内容も、普通とは違ってとても興味深く感じています。もしかすると、他の環境では煙たがられてしまうかもしれないキャラクターですが、我がホームには大歓迎の人材でした。

私よりも、大分年上のこの男性、以前はコンピュータ会社に勤めていたそうです。入浴介助を一緒にしたときに、色々聞いてみたのですが、お子さんは二人いるそうで、ここの給料でやって行けます?って質問すると、一つ間を置いてから、「アッ、む、無理です。」「じゃあ、どうやって生活して行くのですか?」私もしつこく聞いてしまいました。「きっと何とかなると思っています。」結構この行き当たりばったりな発言、嫌いではありませんでした。商社マンからコンピューターの技術屋、そして老人介護。面白い職歴でした。

やはり、かなり高額の報酬だったようです。しかし、不景気から給料は安くなり、ボーナスはなくなり、一緒に働いていた社員はどんどんいなくなって行き、自分にかかる負荷ばかりが大きくなっていったそうです。ある日、後輩と一緒に退職願を叩き付けて、今の自分があると語ってくれました。

そんな話をしながら、入浴介助は行われていました。いつもは一人で行う入浴介助も、研修のためと、二人で行っていました。私は、なるべく業務を進めたい方なので,研修と言えどガンガン入浴を手伝ってもらいました。

面白かったのは,浴槽のお湯が熱いと訴えられて、水を埋めていた時の事です。入居者から「今度は寒いわ。」と言われ、シャワーをかけるのですが、なぜか浴槽を埋めている水を止めてしまうのです。思わず私も、「水を止めたら浴槽がぬるくならないんじゃないですか?」と突っ込みました。すると今度はシャワーを止めてから水を埋めています。きっと、一つの事で精一杯なのだろうと、おかしくなりながら、その光景を眺めていました。入居者から再度「寒い」と言う訴えに、今度は浴槽のお湯をかけてあげていました。でも,そのお湯、熱いから埋めていたんじゃないの?

そんな、素朴な感じの新しい風。会社から、本当にここのホームでよいのですね?と確認されて配属になったそうです。素朴な彼が,素朴なままでいてくれる事を願います。

慣れ親しんだ人が去るとき,新しい風が吹き始める我がホームでした。

2004.01.27

永礼盟