第81回 御下地
こんにちは、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。
「御下地(おしたじ)頂戴」。ある日の昼食時、遠くから声がしました。遠くから聞こえた声に、「お匙(おさじ)頂戴」と聞き間違えました。スプーンをおぼんに乗せてお持ちすると、「あら違うのよ。御下地(おしたじ)頂戴って言ったの」。私は、この単語を生まれて初めて耳にしたので、「御下地ってなんですか?」と利用者に尋ねました。「ええ! 御下地知らないの? 御下地って言うわよね」「ええ言うわよ」「最近の若い人は、使わない言葉なのかしら?」そのテーブル四名様から猛攻撃を食らいました。前回のメルマガで、悪口の的にならないようにと誓ったのですが、早々に標的になりました。
文化の日だったこの日、切り返しの不得意な自分は、利用者から猛攻撃を食らいます。物事を知らない事は確かです。それが、恥であるという事を思い知らされた日でした。食事を出し終えた頃の出来事でしたが、攻撃の的になる予感がしたのでサッと次の仕事を見つけてその場を離れました。しかし、食事を下げる時に事は起こりました。
そのテーブルだけ、食器が片されません。暗黙のうちに、利用者が帰った後に片付けようと言う空気を感じます。理由は、利用者の攻撃の的になるからです。食事がまずいというクレーム、サービスが悪いというクレーム、言葉遣いに対するクレーム、求められる世間話、等々。文章にすると、そんな事は受け止めて当然だと言われると思います。私もそれは義務であると思います。しかし、利用者の目的が解ると、とても嫌な気持ちになります。その苦情の殆どが、利用者のストレス解消です。不満ばかりのホームの生活に、スタッフの粗を探しているのです。見つけられたら、徹底的に説教です。
「永礼さん、あなたに文句があるんだけど言っても良いかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたね、お食事を下げる時に、お食事お下げしても大丈夫ですか?っていうでしょう、あれは目上の人に対して失礼よ。」
「勉強が足りなくて申し訳ありません。ではなんと尋ねたらよろしいのでしょうか?」
「そう言う時は、お食事をお下げしてもよろしいですか?って聞くものよ。そんなことも知らないって言う事は恥じよ、恥!」
食道で大きな声で怒られました。悔しかったので言い返してしまいました。
「澄川様は以前、正しい声かけにも文句を付けたじゃないですか。私なりに、どう声かけしたら良いか迷っての事ですので、何とぞお許しください。」
「あんた、本当に恥ね。間違ってないって解っていればずっと使い続ければ良いじゃない。正しいのか間違っているのか解っていないあなたの勉強不足でしょ? 」
一言もありませんでした。なんで、「はい、すいません」とその場を立ち去らなかったんだろうと後悔しました。更に澄川様の攻撃は続きます。「今日は何の日か知ってますか? 」心では、文化の日と思いつつ、どんなトラップなんだろうと考え、「解りません」と答えました。「あんた、本当に馬鹿ね。文化の日でしょ?」「ああ、文化の日で良いのですね。」「文化の日が何の日か知ってますか?」「解りません」「は~呆れて物も言えないわね。いい?今日は明治節って言って明治天皇の誕生日よ。これで一つ勉強になったわね。それと御下地も覚えましたね。今日の授業料は高くつくわよ。」そう言われ、食事を片付けました。その席を後にすると、話し声が聞こえて来ました。「やっぱり御下地知らなかったわね。わざと聞いてみてみるもんね。それにしても文化の日ぐらい知ってて欲しいわよね。全く、そんなんでよく生きてられるわよね~。」「ね~」
何もかも、自分の無知と頭の悪さが原因です。本当、自分が嫌になる出来事でした。勝負で言うなら完敗です。ここ最近、鬱ぎ込んでいます。
※御下地=醤油のこと
2004.11.12