第86回 ヘルパーまでの道のり(10)

2019年3月16日

こんにちは、永礼 盟です。ご購読ありがとうございます。老人ホームの裏事情と言うメルマガですが、たまに行き詰まる事があります。そんな時は過去に書いた日記を引用する事があります。介護を目指した第一歩であるヘルパー2級取得。その時の想いを書き綴った日記です。いつも拙い文章にお付き合い下さり感謝の気持ちでいっぱいです。

今日で、全ての科目を終了したことになる。そのレポートも提出した。あとは、待つだけである。認定書が来れば、晴れてヘルパー二級だ。今日の実習は、訪問入浴だった。

お風呂を持ち込んで入浴してもらうサービスなのだが、実習の中で一番感動した。実習と言っても、手出しをしないと言う約束の元に行われているので、見学だけが許されるのです。それにしても、お風呂に入るときの利用者様の表情が今でも忘れられない。そのリアクション全てが、訪問入浴の魅力を語っていたと思う。

回ったお宅は三件。しかしながら、スタッフの息のあった作業に脱帽した。あっという間に風呂を組み立て、湯を注ぎ、バイタルチェックを済ませ、お風呂に浸かってもらっている。早業!なんと数分の作業である。

真っ二つのお風呂を一つに組み立てるのだが、シリコンを圧迫させて、水が漏れない仕組みになっているそうだ。今日付いてもらったスタッフの方たちも、優しく暖かい人たちで、その声かけに感動した。

良く手が止まらないなぁと思うほど良いタイミングで声かけする。しかし、手は休まることをしない。常に手と口が動いている。しかも優しく暖かい声かけだ。その声と共に、頭、足、手、背中、胸、陰部と、手際よく綺麗になっていく。

「あ~ぁぁぁぁ」と、とても心地よさそうな表情をしてくれるのが何とも言えない。この巡回入浴サービスを利用する方のほとんどが、介護度4~5だそうだ。喋れなかったり、意識がなかったり、全介助の方が多いと説明された。

今日お伺いしたお宅は、一件目がお話が出来ない方でしたが、帰るときには合掌して送り出してくれました。

スタッフは、私に利用者の方に挨拶するように促してくれ、私は、「今日は、ありがとうございました。気持ちよかったですか? そうですか、良かったです。私も、嬉しいです。本当にありがとうございました。」と、大声で挨拶させて頂きました。

利用者様は、うん、うん、とうなずきながら、合掌しています。それぐらい気持ちの良い物なのだろうと、一件目から感動が自分を襲っています。

二件目の方は、リアクションが派手な女性でした。ハッキリとまではいかないが、ちゃんと喋ることが出来る。お風呂に入った瞬間に、「ガハハハハ!! 気持ちええぇ!! すまんなぁ、こえでがぐで~、ガハハハア!」そんなリアクションの方だった。自分の顔も、ほころぶほど良い表情だった。

入浴を済ませると、なんと泣いてしまっているではないか。あまりの気持ちよさに、感動してしまったようだ。

私にも、握手をしてくれて涙をポロポロ流し、「うるさくてゴメンな~、堪忍な~」とおっしゃるので、「そんなことないですよ~、松本さんと一緒に入浴出来て嬉しかったです!!」そう言うと、また、うんうんうなずいて感謝の気持ちを訴えるのだった。

自分は、「こっちが感謝したいわ~」そんな心境だった。

なんて、やり甲斐のある良い仕事だろうと思っていると、移動中の車に連絡が入った。スタッフは、通常男性1人、女性2人で作業を行うそうだ。そのうち看護師さんが一名。その看護師さんに、クレームが入ったようだ。

私は、どう考えてもクレームの付く様な対応ではないので、何かの間違いだと、ピンと来た。電話の対応での判断しかなかったが、やはりクレームだったみたいだ。

先週に行った訪問先の利用者様の家族の方が、褥瘡(じょくそう)に気づかなかったのは、なぜだ?と言うクレームらしい。

電話を切ったあとに、どういう状況だったかスタッフ同士で話しているのを聞かせて頂いた。

今日のスタッフが、入浴させたときに、すでに出血があるくらいの褥瘡があったそうだ。その旨、家族の方にアドバイスをして、専属の看護師に相談して欲しい事を伝えたそうだが、間違って訪問入浴の所にクレームが来てしまったようだ。

優しい言い方で、「先ほどみたいに、感謝されるだけではないんです。こうやって、仕事として、運営している以上避けられないことなんです。」そう説明された。

私も、この看護師さんなら、褥瘡を発見したら、そのままにするはずないと確信している。何か行き違いの事があったと思われる。しかし、声のトーンを変えずに、優しく諭してくれた姿に、看護の神髄を見た気がする。そんな感動を胸に、最後の実習を終わらせるのだった。

クレームで、心重たい人がいる。実習が終わって、浮かれてる人がいる。入浴して、さっぱりした人がいる。人間って面白いなぁ~。

こうしてヘルパー2級の全課程を修了させ、今に至る。この時のやりとり、今の自分に大きく影響している。約三ヶ月の期間だったが、とても意義ある期間を過ごす事が出来た。ヘルパー2級を取得してすぐに今の職場に就職したが、もう三年以上が経った。この時に思い描いていた介護福祉士の受験資格も発生する頃である。現場の波にもまれながら、次のステップを目指そうとする自分がいるのだった。

※褥瘡=床ずれ

2004.12.21

永礼盟