[06]福祉はビジネスになるのか?(下)

前回のあらすじ
福祉は非常にお金がかかる。俺の試算では年間3600万円必要で、税金を考えると6000万円弱の収入が必要になるのだ。ましてや60歳から要介護状態になって、女性の平均寿命の84歳まで生きるとその額は13億円に達する。もちろんこの額には異論もあるだろう。条件や状況によってはその額が上下する可能性もある。たが、思った以上に福祉にはお金がかかるのは誰にも否定できない。
今回は他にも福祉がビジネスになりえない欠陥を指摘しよう。
(2)福祉は減価償却不可
福祉の大きな欠陥はまだある。福祉がなぜあれだけ割高感が強いかというと減価償却ができないというのがある。減価償却とは「あるモノを買って、その代金をモノが生み出す利益で埋めること」である。わかりやすく例をあげて説明しよう。
例えばあなたがとある田舎に就職したとする。そこに行くには車が必要だ。軽の自動車を90万で購入する。その時点で90万円のマイナスだがこの車を使い職場に通い働いて給料を貰うことによりマイナスを埋める(=償却する)ことができるのだ。これを減価償却という。しかし福祉においては減価償却はかなり難しい。いや不可能と言ってもいい。
かつての福祉の場合、介護費用よりも障害者年金、老齢年金が高い時代もあった。そのため施設に家族を預けていて20年30年いると何百万単位の貯金ができた時代もあった。障害者や老人を施設に押し付けて、貯まった年金は自分たちの懐に入れるようなモラルの無い家族がいた事もある。
しかしそんなおいしい時代はもう終わっている。支援費の導入、介護保険の導入により福祉費用は上昇した(というより本来の負担を要求されるようになった)。もはや要介護者は年金をたかれる資産ではなく、不良債権になってしまったのだ。不良債権という言い方は耳障りかもしれないが、実際その通りなのだ。前号でも述べたが介護費用は本当に金食い虫だ。しかも要介護者でお金を稼ぐことは不可能だし、お金は出て行くばかりなのである。
(3)国にはお金が無い
現在、日本の国の借金がいくらあるのか知っているだろうか?SPA!7月24日号を参考にすればなんと1084兆円になる。これが一番致命的な欠陥だろう。日本国の税収はせいぜい40兆から50兆円くらい。つまり400万から500万しか稼げない世帯が1億円の借金を抱えているようなもの。普通の常識で言えば超過債務だ。
(余談になるが、今も消費税の増税議論が時々出てくる。有権者が反対し、政治家や官僚たちが恐る恐る国民をだましながら導入しようとしている。しかし、そもそも消費税1パーセント上げたところで増える税収は2兆円くらいしかならない。1000兆円の借金の前にはほとんど焼け石に水にもならない。)
どこの国でも「小さな政府」志向が強い。福祉を強くするならどうしても「大きな政府」になってしまう。2006年に介護保険が修正され、いきなり事業所は4割の減算になってしまった。これも国の財政難が影響しているのは誰の目にも明らかだし、政府や官僚もそれを否定しない。
(4)市場原理が働かない。
福祉の業界が他と違うのは他の業界ではありがちな需要と供給の原則が働かないことだ。わかりやすく言えば農作物の価格など参考になる。例えばキャベツなどは豊作であれば値段が崩れ、凶作なら高騰する。近年ガソリンも高騰しているのも同じ理由だからだ。他のサービスやモノも農作物ほど単純じゃないかもしれないけど、需要と供給の法則は影響している。だが、この資本主義のルールが適用されない業界がある。その一つが福祉業界だ。
福祉業界・・・有料老人ホームなど自由に価格を設定できる分野以外、特に社会福祉法人や在宅介護などは料金が介護保険法で決まってしまっている。しかも(3)でわかるように国の負担がアップする可能性はこれからはまず無い。需要があっても他の業界のように自由に価格を動かせるわけじゃないのだ。値段は法律(国)が勝手に決めるために、実際には儲けが出せないことも多いのだ。
もちろん自由に価格が変えられても(1)でわかるように福祉にかかる費用は法外だ。お金持ち以外にこんな負担をカバーできる人はいないだろう。
(5)まとめ
以上をもって、福祉がいかにビジネスに向かないかその概要は朧に理解されたと思う。コムスンの悪行を国の制度があまりにも無理解で、制度の責任だという人も多い。実際その通りだが、だからといって国民を騙す様な真似は許されない。そもそもコムスンにしてもニチイやジャパンケアサービスなど様々な事業所にしても福祉ビジネスの将来性などきちんとマーケットリサーチをして参入した形跡は無い。欲にまみれた愚か者たちが国の甘言に騙されて投資し、泥沼に入り込んでいるのが現状だ。
そもそも郵便やタバコ、高速道路、などおいしい官業ビジネスはそう簡単には手放さないではないか。なぜ福祉を2000年の介護保険制定時に民間に開放したかというと、それは「民間なら福祉の需要を満たして、国の将来が減るかも・・・」という国のいいかげんな希望的観測に他ならない。そんなものに参加するほうがビジネスセンスがないと言わざるを得ない。
エル・ドマドール