[07]福祉=ワーキングプア
この仕事をしていると、よく「福祉にはどんな人が向いていますか?」と聞かれることがある。そんな時俺はためらい無く最初の条件を次のように挙げる。
「貧乏に耐えられることだね・・・」
もちろん福祉や介護をやっていく上でいろんな適性が必要なのは言うまでも無い。それは無慈悲の優しさという人もいるし、お年寄りや障害者が大好きな人と言うような理想主義者もいる。あるいは医学知識や福祉制度の知識も必要という人も少なくない。
だが俺は福祉に向く要素はまず「貧乏に耐えられる」事を強調しておく。
*年収300万!?
福祉従事者の年収はどのぐらいかご存知だろうか?いろんなサイトを調べた結果、年収300万という数字が目に付いた。森永卓郎の本を思い出させるが、10年以上福祉の現場にいた俺に言わせれば眉唾物だ。多くの福祉職員は年収300万も貰っていない。どういう統計を取ったのかは知らないが、どう考えても実際の職員の収入からかけ離れすぎている。多分一部の「常勤職員」を参考にしたのだろう。
実際の俺の給料明細をお見せしよう。俺のとある職場で非常勤職員だった頃は、大体月給が12万?15万くらい。その中間を取って13万円くらいにしよう。13×12=156万円・・・一時金が大体16万円くらい貰っていたから合計172万円。この数字を聞くと大抵の人は絶句するが、意外でもなんでもない。福祉の職場にはこのぐらいの数字しかもらえない人がマジョリティーなのだ。300万と言う数字がどこから来たのか知らないが、実際の大部分の福祉従事者はそんな「恵まれた給料」は貰っていないことを改めて強調しておく。
*生活保護以下
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」この文は何かわかるだろうか?日本国憲法第25条。いわゆる生存権の条文である。この条文を基に生活保護は賄われているのだ。しかし、福祉職員の年収の低さはこの憲法第25条の生存権を明らかに脅かしている。つまりは生活保護以下なのだ。福祉の現場には生活保護受給者は珍しくないが、受給者の生活ぶりは働いている福祉職員よりもリッチで余裕がある事が少なくない。憲法第25条で保護されるだけはある。
俺はとある職場で1ヶ月の給料が12万1千円だったことがある。この額の給与明細を見たときにはあまりの悪夢に眩暈がしたが、すぐに現実的なやりくりを考えた。一人暮らしだからアパートの家賃が4万円、光熱費とケーブルテレビとインターネットが合計2万円、スポーツクラブが1万3千円・・・つまり生活費は12万1千?7万3千=3万8千円だ。一日あたり1200円強で生活しなくてはならなかったのだ。勿論飲み会や旅行、コンサートなど贅沢は問題外、生活費を1ヶ月3万8千円以内に収められなければもう趣味のスポーツクラブやインターネットを諦めるしかない状態だった。まさしく「文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵害されていたのだ。
*お金よりもやりがい??
ここ最近ネットカフェ難民と呼ばれる人々の事をマスコミなどを通じて聞くことがある。グッドウィルやフルキャストにいろんな短期の仕事に派遣されて、帰る家も無くネットカフェで寝泊りしていると言う。ワーキングプアとも呼ばれる彼らは将来がなく不安で、希望を見出せずに社会の底流に沈んでいる。彼らの姿を見ると福祉従事者とダブってしまう。
よく「お金よりもやりがい」が大事と言う。俺も最初はそう思って福祉の職場に従事してきた。お金を稼ぐよりも恵まれない人のために奉仕し、社会貢献をしたいと純真に思っていた。だがやりがいはあっさり崩壊した。福祉の職場には社会貢献や奉仕の精神など残っていないことに働き始めてすぐ気がついた(その過程はまた後ほど紹介しよう)。
それでも俺はモチベーションを高めて、自分のためになると信じてこの世界で何とか続けてきたが7年以上経ったときにふと気がつく。自分が単なる非常勤職員で年収も社会的地位もないワーキングプアであることに。精神的な満足度を求めて働き続けたが恋人を幸せにすることもできない甲斐性なし。それは自分の姿に他ならなかった。このまま非常勤を続けていては恋人プロポーズもできない。それに気づいた俺は断腸の思いで辞表を提出することにした。
お金よりもやりがいや意義が大事だという人は多い。でも俺ははっきり言いたいがそれは明日の生活費さえも心配したことが無い人の台詞に他ならない。福祉従事者の多くは親元に住んでいるパラサイトシングルも多い。自立するべきだと言う意見が多いが、独立したくてもできないというのが現状なのだ。
「太った豚であるよりも痩せたソクラテスであれ」ある大学の学長が言った台詞だ。名言だが、学長という恵まれた地位の人物が言うならそれは嫌味にしか聞こえない。
福祉従事者は転職率も高い。男性の場合、転職する理由の一つは「結婚ができない」というのがあることを強調しておく。自分が貧しいだけなら我慢ができても、自分が結婚もできない社会的地位の低さを噛み締めると我慢ができなくなるのだ。だからこそ福祉の職場に勤める適性は「貧乏に強いこと」だ。
エル・ドマドール