[33]後期(長寿)高齢者医療制度

2018年8月25日

前号でも少し述べたが今回は話題になっている後期高齢者医療制度を議論したい。医療も福祉と密接な関わりがあるので議論する価値はあるだろう。
新しい医療制度が執行される際に、周知が不徹底でいろいろトラブル続きになっているようだ。故人に納入を請求したり、住所が変わっていて保険証が届いていなかったり・・・いろいろ過渡期で混乱があるようだがそれらはすぐに落ち着くだろう。だが、この制度いろいろな批判を浴びているようだ。もっともな批判もあれば、前回も言ったようにエゴの合唱とか言いようがない意見もある。今回はその点もじっくり語ろう。
結論から言おう。こんな程度の改革では老人医療制度の問題は解決できない。反対すること間違いない老人層に配慮したのだろうが、あまりにも生ぬるい。すでに破綻の危機に陥っている国民皆医療保険制度を救うにはあまりにも中途半端だ。
医療費削減が目的なのに自己負担が1割なのは変わらない。残りの9割は税金と他の世代が負担する保険料でカバーされるのだ。しかも高額医療費免除はそのまま温存される。わずかな痛みと言えば同居している息子や娘などの扶養者扱いになれない事だろう。
確かに何もしないよりかは遥かにマシだが、こんな程度では肥大化する医療費の増大を止めることはできない。今でさえ、医療費は31兆円に上る。これから第1次ベビーブーマー世代が高齢化する。そうなると医療費が跳ね上がるのは避けられない。また前回の「なぜ子供を産まないか?()()」を読めばわかるように老人医療など高齢者への優遇策が少子化を招いている側面もあるのだ。老人が既得権にしがみつく限り若い世代が犠牲になる。
読者諸兄の中で病院に行かない人はいないだろう。病院、とりわけ総合病院に行けば否が応でも気づくが、本当に老人が多い。入院している患者、外来の患者にしても老人の割合が多い。軽く見ても病院利用者の5割以上は老人だろう。これ以上老人が多いところは特別養護老人ホームなど高齢者施設ぐらいしかない。どうして高齢者がこんなに病院には多いのか?
高齢者は病気になりやすいというのも一つだがそればかりではない。隠れた要因として病院が高齢者同士のコミュニティーセンターと化している現実がある。通院する同士が親しくなるのは当然の流れだ。そして顔見知りの誰かが通院してこなくなると「あの人最近病院に来ないわね?・・・具合でも悪いのかしら?」とブラックユーモアまで飛び出す始末だ。こんな真似ができるのも老人医療費がとても安く気軽に利用できるからだ。0歳から2歳まで2割負担、3歳から69歳まで3割負担なのに対し70歳以上は1割。あまりにも世代間で負担差が大きすぎるではないか。
こんな生ぬるく救済措置だらけの医療制度改革でも当の老人たちから不満の声が聞かれる。世間も老人の苦痛の叫びに同情的だ。
「今までは息子の扶養家族に入れたのに今度からは保険料を払わなければならない。しかも年金から天引きなんて!!」
マスメディアが批判を強めるため冷静な議論ができていないが、よく考えればこの意見は身勝手な主張としか言いようが無い。
そもそも医療をよく利用しているのは老人だ。しかも老人医療は1割負担で安価なのに、保険料も扶養扱いで払わないのはいくらなんでも恥知らずではないのか?老人医療費は他の世代がカバーしているのだ。しかも前回のメルマガでも明らかなように一番お金を持っているのは70歳以上なのだ。後期高齢者医療制度の月当たり保険料はたった平均4000円だと言う。年収300万円の若者でも健康保険料は1万円以上負担しているのにあまりにも安すぎる。保険料の負担を求められるのは当たり前の話だ。年金から天引きされることに不快感を感じる人は多いが、源泉徴収する方が徴収コストが安くなり社会のためになるのだ。
「’消えた年金’、宙に浮いた年金から天引きするのは酷い」と言う意見もある。確かにいい加減で犯罪者だらけの役所のために年金が不明になっているのは気の毒かもしれない。しかし、今の若者はどちらにしろ老人になった頃に年金給付は無いのだ。貰えるだけありがたいと思った方がいい。そもそも賦課方式にしている時点で若者にとって年金はねずみ講と同じだ。「宙に浮いた年金」が無くても破綻は必至だ。今の老人は若者の年金を間接的に貰っているのだ。この状況で正当な負担を求められた老人が「年を取ったら死ねと言うのか?」と被害妄想的に叫ぶ姿は若者にとって到底許せるものではない。
老人医療の既得権を守りたがるのは何も老人ばかりではない。医療従事者にとっても老人医療費はおいしい既得権益だ。血圧が高ければ降圧剤、風邪をひけば抗生物質。眠れなければ睡眠薬。定期的にレントゲンだの血液検査や骨シンチ・・・病院には濃厚過剰医療が溢れている。しかもこれらの医療行為の9割が必要性が疑問視される始末だ。ましてや病院に行ったばかりに医原病にかかり、余計治療費がかかるケースも珍しくない。医療費の高騰の原因には出来高払いの制度があり、上限を設けることが提案されているがその度に医師会の反対に遭っている。医療費の抑制は緊急課題だがそれを成し遂げるにはあまりにも障害が多すぎるのだ。
エル・ドマドール
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