[41]フォーリナーズ
しばらく認知症シリーズは休んで、今回は別のテーマを提供したい。今回は「フォーリナーズ」、英語でforeignersつまり外国人という意味だ。もう想像がついた読者も多いかもしれないが、今回のテーマは外国人介護職の問題をテーマにしたい。
外国人介護職といえばフィリピン人ヘルパーが日本にやってくる問題を思い浮かべるだろう。日本とフィリピンは自由貿易協定(FTA)により、2006年9月9日に日比経済連携協定を結んだ。この協定により日本政府はフィリピンヘルパーを600人、看護師を400人受け入れることを決定した。
この決定は様々な議論を呼び起こした。外国人ヘルパー、いやもはやフィリピン人ヘルパーと呼んだほうがいいだろうこの問題についてはいろんな議論がなされている。介護業界の人材不足を解決できるという意見があれば、ただでさえ低い日本人ヘルパーの賃金が下がるのではないかという心配もあった。また言葉の問題などのコミュニケーション面での弊害も指摘されている。
しかし、俺はこれらの議論には肝心な本質が欠けていると指摘せざるを得ない。そもそもフィリピン人ヘルパーがたった600人来たぐらいで、どのぐらいの影響があるのか?600人ではとてもじゃないが、現在不足している福祉マンパワーの需要には到底届かない。多くの人が心配するような「日本人ヘルパーの待遇低下」なんてもっと万単位の受け入れをしてからの話だ。
そもそもフィリピン人ヘルパーを受けいれてもコスト削減に繋がるかどうかは疑問だ。フィリピンは国家そのものが出稼ぎ産業で外貨を稼いでいる。貧しいために先進国などに行き、母国に仕送りをして家族を養っているケースが多い。
ご存知のように日本人でも介護職についている人は下手すると生活保護水準以下の給料しか貰っていない人が多い。年収だって300万円台なんてとんでもない。200万円台、100万円台の人もいる。しかも年収は下がるばかりなのに、物価は世界一高い。しかもこれに今話題になっている穀物相場や原油相場の高騰が追い討ちをかけるいるのだ。没落しつつある斜陽国家で、しかも貧乏人の代名詞でもある介護職で母国に送金できるだけのお金を果たして稼げるだろうか?
もっと事実を指摘すれば、フィリピン人ヘルパーにはアンフェアと言わざるを得ない条件が課せられている。来日するフィリピン人ヘルパーの条件として日本政府は次の厳しい規制を課した。
「4年制大学卒業、来日して4年間で介護福祉士の資格を取らないと強制送還決定」
4年生大学の学歴の条件を日本人ヘルパーにも平等に課せば現場から6割の介護者が消えてしまうだろう。ましてや4年で介護福祉士を取得するなんてもはやフィリピン人ヘルパーを追い出す口実にしか見えない。4年で介護福祉士試験の複雑な漢字交じりの日本語をどうやって解するのか?FTA(自由貿易協定)に反する障壁もいいところだ。よくフィリピン政府が文句を言わないものだと思う。
フィリピン政府が日本政府の不当ともいえる条件にあまりうるさく文句を言わないのには理由がある。優秀なフィリピン人ヘルパーが欲しい国は日本だけではない。高齢化が進む先進国はフィリピン人ヘルパーに対しても等しく門戸を開いている。カナダなどは2年間介護業務に従事すれば永住権を与えるとまで言っている。この条件なら俺自身が行きたいぐらいだ。誰が4年制大学の学歴必要で、4年間も散々利用しておいて使い捨てにする国に行くのだろうか?日本のような不当な条件を課している国はどこにもない。フィリピン人たちを必要悪の出稼ぎ労働者と見下すメンタリティには嫌悪感を覚える。恥を知るべきだ。
少し前にNHKのドキュメンタリー番組でフィリピン人ヘルパーの特集を見たことがある。そこでもフィリピン人ヘルパーたちは「どこの国に行きたいか?」と聞かれてアメリカ、カナダ、イスラエル、イギリスなどと答えていた。20人ぐらいいて日本と答えたのはたった一人。思わず番組を見ていて情けなくなった。日本人であることをこれほど恥ずかしく思ったことは無い。
見下している当のフィリピン人たちからも忌避されている哀れな日本。あんな不当な条件を課せば誰も来ないのは当然だろう。日本では介護福祉士会も日本看護協会もこぞって外国人受け入れに反対しているがそんな心配は無用だ。むしろ当のフィリピン人からも相手にされていない事を恥じるべきだ。日本人は未だに世界中の人々がその豊かさに与ろうと日本を我先に訪れていると幻想を抱いている。しかし、日本はもはや没落している斜陽国家なのだ。身の程知らずな要求は日本の名誉を貶めているようなものだ。
エル・ドマドール