[50]薬物中毒者
前回は睡眠薬について語った。しかし、ベンゾジアゼピン系を始めとする神経系統の薬の危険性を語るのにはあまりにも短すぎる。そこで今回は改めて内服薬の危険性を読者諸兄に知らせたい。
薬物中毒者などと言うからには麻薬患者を話題にしたいのかと思われる読者も多いだろう。しかし、今回のテーマは自分はまさか薬物中毒者だとは露にも思っていない人が対象だ。普通の常識では薬物中毒者とは麻薬やシンナー、覚醒剤に溺れた犯罪者、社会不適合者のことを指すだろう。しかし、俺に言わせれば薬物中毒者はごく普通の一般人にも多く存在する。そして社会福祉施設に入所している人は殆ど重度の薬物中毒者だ。彼らはまさか自分たちが麻薬や覚醒剤の虜になっている犯罪者と同じだと思わないだろう。しかし、彼らは薬物に見も心も支配され、蝕まれている哀れな犠牲者だ。むしろ麻薬などと違い、体裁がいいためにその実態や悪質性になかなか気づかれない「性質の悪い」薬物中毒者と言えるのだ。
あの偉大な心理学者ジークムンク・フロイトは精神疾患に苦しむ患者にとある薬を処方した。その薬を飲むと患者の症状はみるみるうちに改善した。効果覿面のこの薬をフロイトは次のように絶賛する。
「この薬を飲むと興奮し、多幸感を感じる」「何回使っても依存症にならない」
しかし、この薬を使用してしばらく経つと精神的に不安定になり、薬を大量に渇望する依存症の症状が出始めた。その症状は酷くなり、フロイトはこの薬に強い副作用があることを認めざるを得なかった。フロイトを惑わしたこの薬は何だろうか?驚くべきことにコカインである。今は違法であるコカインはその当時は合法だったのだ。
そして今合法的に処方されている向精神薬と違法に手に入れられるドラッグは殆ど同じだ。どちらも不安などの心の悩みに使われるが、副作用も幻覚、妄想、依存症、内臓疾患なのである。そしてドラッグも向精神薬も服用理由に大差がない。ドラッグは嫌な現実から目を逸らすために虜になる。向精神薬も同じ理由で服用しているではないか?
例をあげよう。世界中でもっともよく売れている亢不安剤ジアゼパム。この薬はセルシン、ジアパックスとして処方されている。この薬の適応は以下の通りだ。適応症・・・不安、疲労、うつ状態、激しい感情の動揺、震え、幻覚、痙攣、不眠そして一方の副作用だが、よく注目して欲しい。副作用・・・依存症、ふらつき、注意力低下、興奮、不眠、痙攣、痙攣、呼吸困難、失明(緑内障を患っている場合)、
よくよく見ると適応症と副作用が同じモノがある。しかも副作用は呼吸困難や依存症などありがたくないボーナスまでついている。こんなものを処方する医師の考えはおよそ常識では理解できないだろうが、もっと理解できないのは患者がろくに確かめもせずにこんな毒薬をありがたがって飲む現実だ。現代医学の反逆者として患者がどんな副作用があるか知ろうともしないのには驚きを隠せない。医師に直接副作用を聞きづらいなら薬の本やインターネットでいくらでも調べられる。医師も医師だが患者も患者だ。医療従事者は誰も信じてはならない。
患者は苦しみから逃れるために医療従事者を盲信するが、それを止めて自分の身は自分で守るという当たり前の態度を取らなくてはならない。結局健康を守るのは己しかいないのだ。処方箋を薬局に持っていけば薬剤師が薬の説明をしてくれるだろうが、あんなもの出鱈目もいいところだ。注意事項として多少の副作用は知らせてくれるが、依存症(「習慣性」などと言い換えることがある)、胃潰瘍、下血、悪性症候群(熱発、筋肉の硬直、発汗、震えなどを繰り返しやがて死に至る)などおぞましい副作用については教えてくれない。前回も強調したが、副作用の無い薬は存在しないのだ。
タミフル、フィブリノゲン、ソリドマイドなどをご存知の方は多いだろう。いずれも凶悪な副作用で世間をにぎわせた。しかし、まだそれらはほんの氷山の一角に過ぎない。表立って騒がれていないが、SSRI(選択的セトロニン再摂取阻害薬)の脅威はすさまじい。うつ病の対抗薬として開発したこれらの薬は副作用も痛烈で、犯罪事件の加害者が服用していたこともある。コカイン、ダウナー、覚醒剤、LSDが危険なことは誰でも知っている。しかし、同じ作用を起こす薬は医師の処方箋があれば合法的に手に入れることができるのだ。しかも健康保険を使えば7割引、場合によれば殆どタダ同然に手に入る。このような社会が恐ろしいと思うのは俺だけだろうか?
エル・ドマドール
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