[121]プリズンブレイク(1)

2018年8月25日

先日面白い記事を毎日新聞で見つけた。福島県にある特別養護老人ホームで女性利用者が無断外出して、そのまま行方不明になったのだ。毎日新聞の記事を引用したい。

「女性入所者が失踪(しっそう)したのは施設側の管理と注意の不足などとして、家族らが伊達市月舘町御代田の特別養護老人ホーム「星風苑」を運営する社会福祉法人「慈仁会」(星野俊一代表理事)を相手取り、2900万円の損害賠償を求め、福島地裁に提訴した。訴状によると、女性は07年5月19日午後1時40分ごろ、同ホームの正面玄関を出たまま行方不明になった。認知症で徘徊(はいかい)や無断外出を繰り返していたのに、施設側が外出防止の装置を設置せず、行動も注意しなかったのが原因という。星野代表理事は「反論は差し控えたい」とのコメントを出した」(2010年1月26日)

この記事を読んだ後、俺はすぐに迷いなくテーマを某有名テレビドラマから拝借した。不謹慎なようだがこのテーマほど今回の議論にふさわしいものはない。施設から無断で脱獄・・・もとい外出しようとする利用者は実に多い。どの施設も年に2,3回は無断外出騒動が起こる。無断外出した利用者が無事に帰ってくるなら最初から騒動にならないが、脱走したがるのは大抵は判断力や記憶力に重大な問題がある認知症老人だ。勿論そのままでは帰って来られないから脱走が判ると施設中が蜂の巣を突いたような騒ぎになる。職員総出で1,2時間捜索しても見つからない場合は恥を忍んで警察に通報するわけだ。
大抵は半日かせいぜい24時間ぐらいで無事発見されて一件落着となる。老人の場合は行動力もたかが知れているから短時間で見つかりやすいが、行動力が健常者と変わらない知的障害者の場合は大変だ。なまじ知能が高く外見も健常者と変わらない知的障害者の場合は1ヶ月近く帰って来ないケースもある。そして最悪の場合、上の記事にあったようにそのまま帰って来ないケースもあり得るわけだ。当然察しの通り帰って来ないと言うのは利用者が死亡した以外考えられないだろう。
実を言うと利用者が無断外出して二度と帰って来ないケースは今まで無い訳ではない。俺が知っているだけでも数件聞いたことがある。利用者が施設から無断外出して行方不明になった・・・となればテレビや新聞で報道されるはずだと思うだろうが、なぜかどのメディアもその類の話は取り上げたがらない。上の毎日新聞の記事もなぜか全国版ではなく地方版でしか見られない。俺はここに福祉に対する社会の本音が見えるような気がしてならない。
施設をはじめ福祉業界は自分たちの過ちや恥部は知られたくない。マスコミも福祉団体や世論を刺激したくないのかそれとも報道価値がないと見なしているのか。家族も本人の安否よりも世間体が大事なのかそれとも障害を持つ人間は家族の中からいない方が都合がいいと見なしているのだろうか?判っているのは行方不明になった利用者を本気で心配する人間など誰もいないことだ。障害者や高齢者に優しい社会これからは福祉の時代と美辞麗句をのたまっても、いざとなれば行方不明になった利用者は簡単に見捨てられるのだ。
社会がタブー視する背景がある中で、このような事件が新聞記事を飾るのはかなり珍しい。しかも家族が施設を訴える事件は初めて聞いた。俺は訴えたこの家族に敬意を表したい。愛する家族を行方不明にされたら誰でも怒りに震えるだろうが、今まで裁判に実際に訴えるまでは行かなかった。敢えて困難を背負い裁判に訴えた勇気は評価されるべきだ。
この裁判がどうなるかはまだ判らないが、介護施設ではこのような「プリズンブレイク」が珍しくない。しかも何度も同じ事が起きている。介護職員の中には仕方がないと思っている人は少なくない。だが本当にこれらの事故は「仕方がない」で済むのだろうか?次回はその点を検証してみよう。
エル・ドマドール
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