[125]リハビリテーション(1)

2018年8月25日

2006年4月から厚生労働省はリハビリの診療報酬について改定をした。それは脳血管障害は180日、心疾患と運動器は150日、呼吸器は90日以降のリハビリは診療報酬が0になるというものだった。しかもこれらは発症してからの日数で、発病してリハビリを始めてからの日数ではないのだ。政府の主張としては急性期、回復期のリハビリには効果が見られるが維持期のリハビリには効果が見られない。だからある程度の日数が経てばリハビリは不要だと言うつもりなのだろうが、当然ながら当時多くの患者、福祉団体、医療界から大反発を食らった。とりわけ患者によって障害が全く違うのに脳血管障害で180日で一律カットする基準は何なのか?という不満が強かった。
その当時、この改定に対する反対はすさまじいものがあった。どのメディアも政府に批判的だったを覚えている。しかし、今この問題は忘れ去られている。リハビリの日数が制限されるようになって介護の現場で何が起こっているのか俺が証言しよう。
*能力の低下
入所系施設にいると痛感するが、最近入ってくる利用者のADL(日常生活動作)のレベルの低下が著しい。しかし、言っておくが本人の潜在的な身体能力は悪くない人が多い。明らかに身体能力は高いのに移動動作や立位動作などが下手なのである。これは言わずもがな十分なリハビリを施されていないためだと言える。
リハビリを十分受けている人と受けていない人で最も露わな差が出るのが補助具の使用や服を着たり脱いだりする動作だ。特に車椅子のコントロールが下手な利用者が近年目立つ。我流の動作が多いのも特徴だ。普通左半身麻痺の人は右手と右足で器用に車椅子を操作する。しかし、リハビリで鍛えられていない人は手すりを持ったり後ろ向きに車椅子を進めたりする人が多い。いずれにしてもそれでは屋外に出ていく事はできない。当たり前の事だが屋外では手すりはないし、後ろ向きで進むことなど許されない。
よく勘違いされていることだが、リハビリでは筋力ばかり鍛えているように思われるがそれは違う。リハビリで重視するのは筋力だけではない。筋肉の柔軟性も重要視する。筋肉の柔軟性を促進するROM(range of motion)を行うのも大事なリハビリの役目だ。ROMとは簡単に言えばストレッチで筋肉を柔らかくすることだ。
健常者には想像できないだろうが、足を伸ばせたり肩を回したりするのは当たり前の動作だと思っていはいけない。障害者や老人にはこの動作ができない、またはやりにくい人々がいるのだ。病気や骨折などで安静を強いられたり、または怠けて運動を全くしなくなると筋肉が固まり動きづらくなる。思ったよりも動けない自分にショックを受け、ますます落ち込み運動量が減り閉じこもりがちになる。このような身体面や精神面での低下を総称して廃用症候群と呼ぶ。本当の廃用症候群はもっと複雑で説明が必要だが、とりあえず「動かないことによる運動能力の低下」だと思ってもらえばいい。
この廃用症候群で一番恐ろしいのは関節の拘縮だろう。人間動かないとどんどん関節が固くなってしまう。それは老人の場合、特に顕著に現れる。膝が180度伸びていたのが、いつの間にか90度になり、下手すると30度ぐらいしか動かない人もいる。手も同様に肘が伸ばせなくなり、服を着替えるのも一苦労になる。そして最終的には胎児のように膝を抱えて丸まった姿勢になってしまう。
厚生労働省がリハビリの日数を制限した理由はある程度リハビリをすれば、筋力の向上は頭打ちになるというからだ。それは確かに間違っていない。個人差はあるがある程度筋力の向上についてはこれ以上リハビリをいくらしても伸びない限界がある。しかし、リハビリで本当に大事なのは関節の柔軟性を維持または向上させることだったりする。これはROMを止めてしまうと関節の硬化が少しずつ進んでいく。そして少し風邪でもひいて、安静にしているとかなり関節も固くなってしまう。膝が90度しか曲がらないと言う事は立位を取ることも、歩くこともできない事を意味する。またこれは服が着られないことや排泄が自立できない事に直結してしまうのだ。言っておくが固くなってしまった関節を元通りに柔らかくするのは至難の業だ。理論上ROMを施せば不可能ではないが、殆ど元に戻ることはない。そして恐ろしい事に関節の硬化は死への一里塚になりかねない。
この続きはまた来週にしよう。
エル・ドマドール
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