[94]介護保険(1)

2018年8月25日

今まで散々福祉について語ってきたが、よく考えてみると介護保険のついてはテーマにしたことがない。そこで今回は改めて介護保険について語ろう。介護保険とは医療、雇用に次いで設立された公的社会保険のことだ。2000年4月1日から施行され、利用者は1割負担でサービスを受けられ、残りの9割は公費と保険料でまかなう。だが、この程度なら福祉関係者なら誰でも知っているだろう。このメルマガは他のところでは知りえない介護保険の本質について読者諸兄に知らせたいと思う。
まず、介護保険の制定の理由についてお分かりだろうか?俺はかつて1号2号で少し述べているように介護保険とはそもそも増大する福祉予算を削減するための方便だ。だが、その当時の学識者や福祉関係者は介護保険導入前、つまり1999年あたり何と言っていたか?
「在宅で福祉サービスが受けられるようになる」
「これからは自由にサービスを受けられる」
「利用者の選ぶ権利が強くなる」
など能天気な予想を語っていた。しかし、彼らは今歴史の検証をするべきだ。サービスを選ぶどころか追い詰められて介護殺人や介護自殺まで起こるようになってしまった。自分たちの無知と甘さがどれだけ利用者や市民を苦境に追い込んでしまったか。謝罪をして欲しいものだ。改めてここでも強調するが、介護保険は介護を社会認知させるものではない。国が障害者や老人など弱者を切り捨てるための政策なのだ。
第1号で述べたように福祉は元々搾取されている社会的弱者の不満を懐柔するための政策だったのだ。あまりにも搾取が行き過ぎると暴動や一揆を招いたりして、権力者や資本家の地位が危うくなってしまう。そのために税金を再配分して、ある程度社会的弱者の生活を保障するようになったのだ。このように福祉は長期的に見れば権力者や資本家のメリットになるものだった。しかし、今の日本やアメリカには再配分する税金の余裕さえない。だからこそ、まずは社会的入院や施設介護などで公費を圧迫する利用者を叩き出すために「在宅介護」をサービスに入れ始めたのだ。
介護保険のサービスには限度額があることは介護関係者なら知っているだろう。例えば、要介護度5の居宅サービスは1ヶ月36万円ぐらいまでは1割負担で介護サービスを頼めるように。しかし、俺はここで疑問に思う。どうして医療保険に限度額がないのに、介護保険にはあるのか?そしてなぜこれを誰も指摘しないのか?介護保険と違い、医療保険は出来高払い制度だ。一応保険審査はあるが、検査や処置、投薬をすればするだけ病院側に報酬が支払われる。
これが乱診乱療を招き、不要な検査や治療、投薬の原因になっていることはもう20年以上前から指摘され尽くしている。しかも、医療保険には介護保険にはない高額医療の免除制度まである。このため国家財政に占める社会保険料は大きく国民に負担をかけている。「医療費の増大を招く出来高払いを止めて、限度額制にしよう」と動きもないわけではないが、その度に医師会の強硬な反対にあっているのが現実だ。しかし、介護よりも無節操な医療行為の方がはるかに身体的な危険が大きいのだ。どうして医療が良くて介護は出来高払いは駄目なのか?それは介護つまり福祉は医療に比べ政治的圧力をかけられないことを表している。
これも気付く人はあまりいないが、介護保険前は措置制度で介護費用は一部応能負担(収入に応じて負担が変わる)で残りは税金でまかなわれていた。しかし、介護保険はその税負担を半分にした。応益負担(受けたサービスの量で変わる)で利用者が1割負担で、その残りの9割のうち半分は税金、残りの半分は保険料でまかなわれることになった。俺は最初これを聞いたときにあまりにもえげつない国のやり方に閉口したものだ。どういうことか判るだろうか?国は介護費用を平然と5割カットしたのだ。
言っておくが、国がカットした税金にしても元々は納税者が稼いだお金なのだ。国民は納めた税金をより大きく包括する形で受け取る権利があるのだ。介護システムの構築のために新たに介護保険を制定したと言うが、はっきり言って介護保険料は国民に対する新たな増税に他ならない。おかしいことに消費税の税率アップには国民は反対するが、保険と名が付くとなぜか反対しなくなる。しかし、よく調べれば調べるほど介護保険の財政負担には欺瞞を感じられずにはいられない。しかも、あれだけ税金を無駄遣いしているのだ。よくこんなふざけた制度に国民は怒り出さないものだと思ってしまう。
もうここまで読めば介護保険の行く末がどんなものか判るだろう。案外知られていないが、介護は本当にお金がかかる。医療もお金がかかるが介護は24時間欠かせないからその出費は予想以上に高くつく。赤字財政に苦しむ国や地方自治体が膨大な介護費用を快く払うだろうか?払うわけがない。事実介護給付は削減されるばかりだ。
あまりにも低すぎる介護給付に事業所や利用者、家族たちはよく「厚生労働省はあまりにも実態をわかっていない。もっと給付を充実して欲しい」と文句を言うが、何を言わんかやだ。「生活援助を充実して欲しい」などあまりにも無謀でピント外れだ。国や地方自治体も悪いが、こんな危険な代物を信じるほうにも問題がある。申し訳ないが、愚かさにも程がある。時代の流れを読めば、介護保険給付が削減されることはあっても増えることはないことは理解できるはずだ。
エル・ドマドール
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