第4回 誤薬

2018年8月26日

こんにちわ。永礼です。つい最近、誤薬をしてしまいました。誤薬とは、その名の通り、薬を間違えることです。このミスは、ホームの仕事の中でも、絶対にしてはならないことの一つです。

介護職を始めて、一年が経ちましたが、繰り返し、繰り返し、タブーであると教わってきました。しかし、沢山の誤薬があった事が事実です。どれも大事にはいたりませんでしたが、絶対に起こってはいけないことなのです。

例えば、うつ病のひとに、パーキンソン病の人の薬を飲ませてしまったとしましょう。うつ病の脳が、活性化されて自殺願望が強くなり、自分の命を絶ってしまう事も考えられます。もしもそれが、実際に起こってしまったとしたら、こんな悲しい事故はないと思います。

私がやった誤薬とは、その人が飲む分の薬に、他の人の薬が混ざっていたと言う物です。多丸様(仮名)が飲む薬に、桂様(仮名)の薬が混ざっていると言ったら解りやすいでしょうか?多丸様が飲まれている薬には、血圧を下げる薬が一錠入っています。桂様が飲まれる薬にも、血圧を下げる薬が2錠含まれていました。と言うことは、合計3錠の血圧低下剤を飲まれた事になります。ほんの数分で、運命が分かれました。

多丸様の薬を持っていって、桂様の薬がないことに気がついたのに、1分もかかっていませんでした。しかし、既に、多丸様は、桂様の分も飲んでしまっていたのです。すぐに血圧を測ると、110/60。問題のない数値ではありましたが、様子観察必至の状態です。30分後に、もう一度計測すると、96/58。徐々に下がり始めていました。歯をガチガチ言わせてながら、悪寒に耐えているようです。色々なことが、頭をよぎり、頭と心にストレスが掛かるのを感じました。もしかしたら、人を殺してしまうかも知れないと言う、とてつもなく大きなストレスでした。

お昼が終わるまで、体中の血管が開いたままでした。タブーを起こすことが、こんなに辛いとは。午前中の様子は、バイタルの数値もご本人の様子も問題なしでした。

ホームのクリニックのドクターから、それほど問題視はしなくても良いとは思うが、午後から病院へ受診しろと指示されました。見る見るうちに下がる血圧。病院へ向かうときに計ったバイタルは、90/58。明らかに薬の効き目です。縮小する感じの胃。絶えずやって来る嘔吐感。その背負わされて十字架のような感覚に耐えることで、自分の精神バランスを保っていました。

病院について、誤薬があったことと、それまでの様子を伝えました。しかし、血圧を上げる薬はなく、安静するしかないと先生から言われ、ただ、耐えるしかありませんでした。その間、御入居様に苦しい様子がなかったことだけが、救いでした。

一度、ホームに戻って、様子に変化があったらいつでも良いので再来してくれと言われ、帰ホームしました。薬の効き目は、24時間持続するので、次の日の八時までが勝負となりました。それまで、様子が変化しなければ、もう誤薬よる心配はなくなります。私は、最も長い24時間を体験し、今に至ります。

多丸様には、異常は見られませんでした。『誤薬』とても重たい事故だと、実感しました。

2003.3.10

永礼盟