【第24回】特別養護老人ホームの実態(13)~色は生きることへの肯定~

2019年3月21日

明けましておめでとうございますというと、ええ?と思われるだろうが、辻本は年明けはじめて原稿を書いているので、お許し願いたい。特養版マディソン郡の橋はそれなりに反響があったみたいだが、一人ではなかなか寂しくて生きていけないのは主に男性であることからお話しよう。還暦を越えても、女性のお尻やおっぱいに関心あるのはやはりおじいちゃんであるのはいうまでもない。この節ちょいとふれようものならセクハラです!と騒ぎになるほど偉いことになるが、考えてみれば職員の胸やお尻に触れようとするぐらいの気力があればかえって安心と言ったら若いぴちぴちの職員は眉をひそめるかもしれぬ。

介護保険のスタート時には、日常生活に関わる調査項目で痴呆の問題行動の1つとして性的迷惑行為の有無というチェック欄が存在したが、2003年の改正で削除されてしまった。現場のスタッフの話を聞く限りではけっこう頻発しているとも解釈される性的問題行為?は調査項目としては痴呆の問題行動の1つの指標として取り上げるほどの頻度はなかったというのが削除された理由だったと思う。

人間は生まれながらに百八つの煩悩があるされるが、種族保存のためにオスは特にできるだけ多くのメスと交わることを本能で求めているとされている。痴呆の問題行動として、性的迷惑行為というのを説明するのはけっこう難しいことである。色ボケといえばそれで、通じてしまうほど単純ではない。性は年をしたら枯れるものという考え方は間違っており、色にボケるというよりも生きる喜びの性、生きがいの性が日常生活の中で老後にクローズアップされていくと思う方がはるかにわかり易い。食欲や睡眠欲と同じくらい、異性への関心、すなわち性欲は老後の関心事項となると思うのが妥当と考える。

ちなみに男性は70歳代まで性欲がきちんとあると報告がある。(ただし個人差は大きいらしい)勃起能力そのものは、50代から低下がみられ、70代になると約半数近くが勃起不全になるとは言われるが、性欲そのものが消滅するわけではない。勃起不全の原因は、主に心因性が多く、相手の拒否や血管の老化が助長因子とされている。オスというのは本来骨格から筋肉のつき方から攻撃に向くようにつくられている。闘争本能も高い。で、争いに勝利したオスが好きなメスを従えることができるのである。

女性は閉経後女性ホルモンの減少により膣の湿潤度や性交痛が起こりやすくなるので、異性には関心はあっても性行為そのものには関心が低くなることが多い。男性と女性の決定的違いは、男性は性器の結合に固執するが、女性は温もりや癒しの雰囲気を求めると言われる。つまり男性にとって性欲は争いを勝ち抜き、種族を保存すべく精液を放出するということ、すなわち精液を出すという営みは生きている証ともいえる行為らしい。出すだけなら、別に物理的な摩擦によって、例えば自慰行為でも十分なわけだが、女性の性器の中で放出する満足感とは大きくかけ離れたものらしい。異性のフェロモンというのがやはり感じないと放出した後がむなしいとの話しである。

利用者とこういう猥談?ならぬ艶話をする筆者は果たしていったい何者であろうか。うら若き乙女なら顔を赤らめるところだが、化粧と面の皮だけは厚くなったので、結構素面でこんな話を楽しんでしまう、自分が恐ろしい。夜間の排泄をポータブルトイレや尿瓶にされる方は施設でもおいでになるが、昼間カーテンは開放されている4人部屋が多く、個室ではないため、性的処理をどうするかは大きな課題ではある。

入浴介助では陰部はご自分で洗浄してもらうのが基本だが、その近くを洗って差し上げているだけで、顔が赤らむようなことに出会わせたことは今となっては懐かしいものである。尿瓶に己のものをこすり付けていた痩せた背中を思い出してみても人間の生命力に感動こそ覚えはするが、けして恥じるべきこととは思わない。なんと愛おしい存在ではあるまいか。

姨捨山の伝説は有名である。極貧の山村にて次男以下で生まれた男の子は生涯、嫁とりも叶わず、農耕馬と一緒に納屋で寝起きの生活を送る。そんな男たちの性の慰めや手ほどきは全てその家のおばばが務めていた。性欲を満たしてやらないと欲求不満がたまっていき、一家の統制がとれなくなってしまうのである。高齢者は自らの務めとして、自分の息子の慰めものとして身をさらけ出すのである。生物としての本能の残酷さと悲哀を描いた部分はしみじみと考えさせられるのである。

人肌というのが人間の心の底に安らぎを与えてくれることをたまには思い出してほしい。握られた手はそっと優しく握り返して差し上げるぐらいの余裕は持っていたいものでは?聖母の皆様!次回は高齢者と話題にするのは死と同じくらいタブーとされる戦争の話題を取り上げたいと思う。お楽しみに。

2006.01.17