[10]テクニクス

2017年1月1日

トリオがドンシャリ型のアンプを世に送り出した頃、その倍の値段でしかも出力は半分にも満たないという控えめなトランジスタアンプを作っているメーカーがあった。テクニクスである。そのアンプはしかし、全段直結差動方式という究極のドライブ方式を採用したアンプで、真空管アンプのよいところをすべて引き継いだ名作である。その名をテクニクス50Aという。

片チャンネルあたり80Wが当たり前の時代に50Aは30Wしかなかった。しかし全段直結のメインアンプ部をサポートするプリアンプ部での歪みの無さ、忠実そのもののイコライザー部、正確を極めたトーンコントロールなど当時としては最高のテクノロジーを惜しみなく注ぎこんだ仕様になっている。しかし価格は95000円。当時の高校生には買える由も無い。

テクニクスは松下電器産業(株)の究極のオーディオ事業部「テクニクスチーム」によって開発された製品群につけられる名称で、その名に恥じない製品群を誇りとしている。松下はパナソニックというブランドを持っているがパナソニックはもはやブランドとは呼べない汎用機のイメージがある。もちろんパナソニックとテクニクスとでは格が違う。

ちなみに、現在発売されているテクニクスのアンプはコントロールアンプとメインアンプに分かれていてその合計は100万円近くする。安いAVアンプも発売されていてこれはちょっと首を傾げてしまうが、テクニクスブランドの片鱗に触れるにはいい入門機かもしれない。

また世界ではじめてモーターをターンテーブルに直結したダイレクトドライブのアナログプレーヤーもテクニクスが最初に開発発売した。その頃は高回転のモーターをアイドラーと呼ばれる「コロ」で減速駆動したり、ベルトで減速するベルトドライブが主流だった。モーターを直結してしまおうという発想もすごいが、それを可能にするモーターの開発もすごい。あとにも先にもテクニクスといえばアナログDDプレーヤーの名声をほしいままにした。

テクニクスブランドは半端じゃない。もしオーディオビジュアルに凝ってみようと思われる方は、まずテクニクスを候補に上げられることをお勧めする。現代において期待を裏切らないメーカーというのは少なくなってしまったが、テクニクスは期待を裏切らない最右翼に位置するメーカーだ。ぜひともお勧めしたい。

2000-07-24