第62回 虐待~その2~
後輩と私で、丸山さんのケアにあたります。まずトイレにお連れします。それはもう、拉致されたぐらいの騒ぎようです。手には多量の便がついており、その手を私がしっかりと持ち、後輩がズボンの着脱を試みました。上手く行かず、手洗いさえ出来ない状態。「風呂場に連れて行こう。」二人で声を掛け合い、お風呂場まで誘導します。
私の手を振り払い、私と後輩に攻撃を仕掛けてきます。「うん。そうだね。嫌だね。」興奮を和らげるような声かけを行いますが、暴力は収まりません。強引に服を脱がせ、陰部洗浄を行います。丸山さんの手が、私の口を殴りました。その手には多量の便が付いており、口の中に何やら固形物が入ってきました。しかし、介助を途中で止める訳に行かず、丸山さんが落ち着くまで陰部洗浄を行いました。
やっと丸山さんが落ち着いて、普通の入浴介助に切り替えると、うがいをする事が出来ました。その間、息は鼻から吸えず口で呼吸をしていました。その物体の味と香りを感じる事が怖かったのです。しかし、自分の意志とは関係なく、口の中の感覚は感じてしまうのでした。
その固形物、唾液と混ざると溶ける性質があるようで、口の中で溶けて行くのでした。まるでキャラメルのように….
味や香りは分かりませんでしたが、その感触は今でもよ~く覚えています。丸山さんは、入浴前には大暴れしますが、入浴が終わってしまえば温和になられます。今までの光景が嘘のように食堂でお茶を飲まれています。
あっという間に、私の固形物誤飲事件は広まり、休憩時間の喫煙場で「御愁傷様でした。」と他の職員から言われました。一緒にケアを行った後輩は、東京の大都会の真ん中にいる様な美形の顔立ちです。そんな後輩が煙草を吸っていると「お前の腕になんかついているぞ。」他の職員から突っ込まれます。「うおっ!」そう発言する彼女の腕には、丸山さんとの格闘の傷跡が残っています。彼女の上着の片側は茶色く染まっているのでした。
うんこを食べても、便まみれになっても、利用者に攻撃を加える事なくケアを行う事が出来ました。しかし、これが虐待ではない保証は何処にもありません。何が虐待で、何が虐待ではないか?
我々は、嫌がる人にケアと言う隠れ蓑で入浴を強要した事は間違えのない事実であり、それが正しいのか、間違えなのか、答えは分かりません。
怒濤の様な光景の後、和気あいあいな雰囲気に触れながら現場に戻ります。オスバン液につけられた職員の上着を後にして…..
2004.06.08
永礼盟