[84]障害者の虐待

先週は虐待事件を例に挙げたのを覚えているだろう。そこで例に挙げた虐待は児童虐待に相当するものであった。当然ながら虐待はいろんな人々を対象に行われている。今回は障害者虐待について語りたい。
最初に言っておく。障害者施設と一言で言ってもいろいろあるが、広義の虐待をしていない施設などこの日本国内にはまず存在しない。精神障害者施設、精神病院、知的障害者施設などそもそもの存在意義から障害者の基本的人権と相容れるものではない。なぜならそれらの施設の設置理由は社会で対応困難な障害者を一箇所でまとめて集団管理するものだからだ。現に無断外出を防ぐためにどこの知的障害者施設も精神病院も施錠だらけだ。
高邁な理想はどこの施設も口にする。「利用者が満足な暮らしができるように目指したい」「ノーマライゼーションの理念にのっとり、利用者の社会進出を目指す」俺は未だにこんな事を平気で恥じらいもなく言える施設関係者の精神構造がよく理解できない。実際の知的障害者施設や精神病院はテレビドラマ「プリズンブレイク」を彷彿させる代物ばかりだ。中には本当に数メートルの塀がある施設まである。まともな精神の持ち主ならあの「刑務所」的外観を見たあとに「利用者のために何かしてあげたい」などとほざく福祉関係者の感性には奇異を感じるだろう。立派な理想を言う前にあの「刑務所」を何とかしろと言いたくなるものだ。現に殆どの施設では満足に自由な外出もできないのが現状だ。
勿論どうして施設がこんな「プリズンブレイク」状態なのか反論があるだろう。利用者の無断外出を防ぐというのが一番大きい理由にあげられるかもしれない。俺もそれは確かに認めざるを得ない。時々塀や施錠をしていない施設もあるが、利用者の無断外出の度に職員総出で捜索するなど、その手間や負担はあまりにも大きすぎる。中には近隣の住民に迷惑をかける利用者もいるから恐ろしい。監督する都道府県や厚生労働省も施錠に関しては「止むを得ない」と黙認状態である。現状の施設の財政状況を考えるとこれ以上の施設職員を増やす選択肢はないのだ。施設という集団管理を要求される存在そのものがもう「虐待」と言っても過言ではない。しかもその施設を最も要求するのは障害者本人だけではない。障害者の家族を含め、健常者の人々、国家そのものが施設の存在を必要としている。
障害者の虐待が行われるのは何も施設の中だけではない。一般家庭でも障害者は座敷牢みたいなところに閉じ込められていた時代があった。今とは違い、障害者の存在が遺伝子的欠陥を連想させるために社会から隔離され閉じ込められていたのだ。
逆に障害者の社会参加、就労支援などを行う人々もどうだろうか?俺は議論を呼ぶことを承知で言うが、障害者や貧困者などにわざわざ近づいて就労支援や社会参加支援をしたがる人々ほど信用できないものはない。彼らの大半は偽善者だ。
俺は当初「こんなことを言うのは言い過ぎでは・・・」とためらいがあったが、近年その考えは正しいと確信している。だから敢えて言う。障害者とわざわざディープに関わろうして、善良さをアピールする健常者ほど信用できない人はいない。普通の人々は良いか悪いかは別にして障害者からはある程度の距離を置く。何のメリットもない彼らに近づく人々は何らかの思惑があって近づくのだ。あるいは最初は純粋な社会貢献心から障害者や貧困者と関わるようになっても、次第に堕落して悪行に加担するようになる。俺は変心してしまった福祉関係者を嫌と言うほど見てきた。元々コムスンを始め社会から糾弾された社会福祉法人や企業にしても最初から堕落していたわけではない。福祉の現実に直面するたびに際限なき妥協を繰り返してしまったからだ。
96年には水戸のアカス紙器で知的障害者従業員に対する虐待が発覚した。アカス紙器の経営者は知的障害者を積極的に雇用する名士として地元で尊敬されていたが、彼が知的障害者従業員にしたことはまさに鬼畜の所業だった。賃金不払い、角材で殴る蹴る等の暴行、食事も与えない、入浴もさせない。果てには女性の知的障害者をレイプするなど、善行の仮面を被った犯罪者だった。
近年には貧困ビジネスと称して障害者の生活保護の申請を代行して、その保護費を搾取する事件が発覚した。また北海道札幌市ではある食堂で住み込みで働く知的障害者3名が保護された。30年近くも無報酬で働かされて、障害者年金も横領されていた。外出も許されず、風呂にもろくに入れない事実上の奴隷状態だった。これはほんの例外ではないか?そんな反論もあるだろう。しかし、社会からの権利擁護の法律もなく、自分を守る術を知らない障害者たちの歴史は間違いなく虐待や搾取なしに語れない。それが真実ではないのだろうか?
児童や老人の虐待を防止する法律はあるのに、なぜか今まで障害者の虐待を防ぐ法律はない状態が続いていた。先ほど例に挙げた数々の虐待事件もきちんと法律があれば、予防できていたかもしれないし、もっと早い段階で発覚していたかもしれない。
このような障害者の虐待に対処するために国はやっと先月「障害者虐待防止法」を超党派で成立させた。遅まきとはいえその取り組みは評価したい。しかし、この法律を読者のために詳しく説明すると、はっきり言って欠陥だらけだ。
まず都道府県に対応窓口の権利擁護センターを置き、職場での虐待は労働局(ハローワーク)が対応するのだが、両者ともに調査はできても逮捕などの強制権が一切ない。そして家庭、職場、施設では通報義務があるのだが、恐ろしいことに病院と学校には通報義務がないのだ。一応病院と学校の管理者には通報義務があるが、現場レベルではないのでは意味がない。これでは単なるザル法ではないか。とてもじゃないがこの「障害者虐待防止法」はあまりにも頼りないと言わざるを得ない。
エル・ドマドール

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