[56]転職シリーズ(1)転職者の悲劇

前号は転職について述べたのを覚えているだろうか。転職についてはとにかく福祉系に来る転職は止めた方がいいというのが俺の持論だ。特に福祉の前歴がある人は同じ福祉業界へステップアップなんて考えない方がいい。福祉の職場から堅気の仕事に替わるのはいいが、福祉から福祉の職場に来るのは止めた方がいい。なぜなら福祉の前歴があると屈辱的な目に遭わされるからだ。
よく転職アドバイザーから聞かされるのは「連続したキャリアでないと評価されない」だろう。例えば広告代理店に勤めた経験を生かしてより大手の広告代理店に転職するなど、前職の経験を生かした転職をする必要があることを指しているのだ。これは確かに当たり前のことだろう。しかし、この当たり前のことが通用しない業界が福祉の世界なのだ。
福祉の業界では福祉の経験が評価されるどころか下手すると不利になることがある。ある程度福祉を知っている経験者よりも未経験の素人の方が歓迎されることが少なくない。福祉の施設が欲しがる人材は一番が新卒の学生、そして未経験の中途転職者、そして一番最後が福祉経験者なのだ。現に新卒の学生は無条件で常勤で雇うが中途は非常勤で雇うところが多い。例外は配置義務があり、5年の実務経験がどうしても必要なケアマネージャーぐらいだろう。
福祉の職場はどうしてそんなに経験者を嫌がるのか?常識で考えれば福祉の洗礼を受けていると言うのはアドバンテージともいえるはずだ。よく採用者側が建前で言うのは「なまじ福祉経験があると今の職場への適応に苦労するのでは?」だ。確かに「前の職場ではこう言うやり方だった!!」などと前の職場のやり方を持ち出してトラブルを起こす分からず屋はいる。しかし、全ての転職者がそんなトラブルを起こすわけではないし、上手く行くかどうか解らないのは新卒者も同じのはずだ。
もう一つ採用側が使う理由は「あまりにも転職が多いと、すぐ辞めてしまうかもしれない」だろう。これに対しては一体何を言わんかやだ。自分の所で職員の退職を引き止められないから中途を募集しているのではないのか?福祉の職場は3年で8割近い職員が去る酷い労働環境だ。ましてや派遣や非常勤など最初から転職されるのを前提とした勤務形態で雇っている職員がいるくせに転職者を低く評価するのは二重基準もいいところだ。
元々日本社会は中途社員を歓迎しない風土がある。中途採用者を不利に扱うのは終身雇用システムの特徴だと言ってもいい。終身雇用は長い間続いたが、90年代後半の不景気時期にはリストラが流行りこのシステムは否定されたはずだった。これからは終身雇用は時代遅れ、雇用流動性の時代になると言われた。しかし、否定されたはずの終身雇用は現在も日本社会に色濃く影響力を残している。中途半端な流動雇用と終身雇用が存在し、転職者を苦しめている・・・それが現在の日本の転職環境だろう。
その他の理由にはこんなものがある。転職者を入れると年功序列による給与バランスが崩れる。また伝統的な職場内の擬似的家族構成が崩れるなど知識人によっていろんな意見がある。俺はそれらが間違っているとは言わないが、もう一つ転職者を忌避する要因を指摘しなければならないと考える。
もう一つの要因、それはずばり鎖国メンタリティだ。次は福祉施設や会社が福祉経験者を忌み嫌う要因、鎖国メンタリティについて説明しよう。
エル・ドマドール
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