第90回 顔と名前
こんにちは、永礼 盟です。ご購読ありがとうございます。異動して数週間が経ちました。少しずつ見えて来た物があり、仕事ができない焦りと共に、興味深い発見もある毎日。慣れるまでは、まだまだ大変そうです。
私は、三度目の異動になるのですが、先ず最初に利用者の顔と名前を一致させる事に労力を費やします。これが解らないと仕事になりません。しかしこの作業にコツ等なく、共有部に集まった利用者の方々の名前と顔を確認する努力をします。
今回苦労したのは、お食事の席が決まっていない事でした。食堂に来た順に、好きな席に座られるので、さっきはここに座っていたのに、今は全く違う所にいるという事が生まれます。これが名前を覚えるにはネックでした。私が、利用者の名前を覚える方法は、席次表で名前と顔を確認して行く事だったので、このシステムはとても痛かった。ホームの理想としては、かなりレベルの高い事だと思いますが、覚える方にしてみればこれは厄介でした。
異動して来た時は、「ふん。どうせ、あんたも数日でいなくなるんでしょ?」そのような言葉を浴びせかけられました。この言葉で、職員の入れ替わりが激しいという事が伝わって来ました。今までいたホームとは違い、自立度の高い方が多いので、厳しい事を言われました。挨拶回りをした時の利用者の発言を聞いて感じた事は、職員の入れ替わりが激しい事に対しての怒りでした。「お前は、腰掛けなのか、そうでないのか?そうでないのなら、よろしく頼む。」そう言われ、それだけ職員の定着率が低いようです。
異動して数週間が経った今、利用者の方から声をかけてもらえるようになりました。「どう、慣れて来た?」 「慣れるまでは、大変ね。」そんな優しい言葉をいただけるようになったのです。毎日コツコツと仕事をすると、利用者の方も職員の名前を覚えてくれる事を痛感しました。
「永礼さんね、あなたも大変かも知れないけど我々も大変なのよ。あなたは若いから名前を覚える事は容易でしょう。でも、私たちが職員の人に慣れるのは容易ではないの。特に私のように細かい決まり事があると、新しい人だと不安になるのよ。」
この言葉にドキッとさせられました。顔と名前が一致しないのは、新しい職員だけでないという事です。利用者の方も、新しい職員の人の名前と顔が解らないという事にストレスを感じている実態に目から鱗が落ちる思いでした。
「永礼さん、あなたの名前は珍しいからすぐに覚えたわ。それと、あなたの髪型。ちょっと普通じゃないあなたの髪型がとても解りやすかったの。だから覚えたわ。」
利用者の要望は、同じ人が長く勤めてくれる事です。その人の生活スタイルに合わせるのが、老人ホームのサービスです。違う職員が入れ代わり立ち代わりやって来たら、当たり前の事がそうでなくなってしまいますね。
異動願いを出した自分が言うのは何ですが、職員の定着率が、ホームが落ち着く一因だと感じます。
2005.02.03
永礼盟