[44]ナンセンスコール(上)
ここ最近、新聞、テレビなどのメディアなどで非常識極まりない119番通報をする人がいるらしい。
・「子供が熱を出した」というので駆けつけたら実は具合が悪いのはペットだった。
・「救急車なら早く看てもらえる」と思い自分で病院に行けるのに救急車を呼ぶ。
・救急車をタクシー代わりに使おうとする
・水虫や深爪などおよそ救急とは程遠い症状で119番通報する
中にはとんでもないウソをついて救急車を呼ぶ非常識というよりも犯罪に近いことをする輩までいるから救急隊員は大変だ。北海道では一日200回超える通報を行って、消防隊員に注意され自宅に放火して逮捕されるケースもあった。重傷者に限られるはずの救急通報だがその半分は救急車を呼ぶ必要性のない軽症者だという。しかも、そんなろくでなしの為に本当に重症な人が犠牲になることも少なくないという。
読者諸兄は火事もないのに消防車が走り回っている光景を見たことがないだろうか?実はあれは救急車が全て出払っているために、仕方なく消防車で現場で駆けつけた姿なのだ。勿論消防車では搬送ができないために後で救急車に来てもらうのだが、近年消防通報が増えてこんなケースが多いらしい。
非常識な119番通報に世論はかなり批判的だが、これと同じ無法行為が昔からまかり通っている場所がある。もうこのメールマガジンを購読している人なら体験済みの方も多いだろう。それは社会福祉施設と病院だ。世間では非常識な119番通報が問題になっているが、介護施設や病院ではとうの昔から同じような非常識なナースコールが跋扈している。俺もこのようなナンセンス119番通報のニュースを聞いて思わず自分の体験と同じようにシンパシーを感じたものだ。
ナースコールもおよそ何らかの用事がある人が使うべきだとされているが、実態はそうではない。「今何時?」「今からごはん?」などの確認をしてくるコール。「ティッシュ取って欲しい」「トイレに行きたい」「テレビをつけて」など細々とした用事を5分ごとに言いつけるコール。「オムツ替えて」と言ってはすぐに来ないと何度もコールをしてくる人。あるいは「お腹が痛いんです」と嘘を付いて職員を呼びつける人。見栄も体裁もかなぐり捨てて「誰か来て下さい。寂しい」という人。どうしても忙しいから「待ってください」とお願いしてもすぐ来ないと何度もコールしてくる人・・・・・
不条理と戦っているのは救急隊員だけではない。誤解が無いようにお願いしたいが、利用者全員がこんな非常識なコールの使い方をするわけではない。しかし、一部の利用者のコール利用回数が多いためにどうしてもナンセンスコールが目立つ。
ナンセンスコールが職員に与えるストレスは尋常じゃない。16時間以上続くハードな夜勤業務にも加えて、いつ利用者が急変するかもしれないプレッシャー。ただでさえストレスが多いのにわがままな利用者のナンセンスコールはますます職員から余裕を奪う。第42号「介護を辞めるとき」にも書いたようにこれらのナンセンスコールは職員を退職に追い込む直接要因になっているのだ。酷いとコールが鳴っていないのに、鳴っているように聞こえる幻聴が聞こえることがあるが、実は俺にも幻聴の症状がある。さすがに職場を離れるとなくなるが、中には職場を離れても幻聴に悩まされている人もいる。
ナンセンスコールが原因で職員と利用者で口論になる事は珍しくない。それどころか虐待の要因になることもある。虐待事件の裏には直接ナンセンスコールが関係していることも少なくない。虐待の要因にもなると聞くと驚くかもしれないが、介護現場に10年以上いる俺に取ったら意外でもなんでもない。
こんな事を聞くとよく「サービスを利用して頂いている利用者と口論になるなんてもっての他だ!」と正論を吐く人もいるが、そう言う人に限って本当に福祉の現場を体験していないか、あるいは経験があってもぬるい職場で育った人かどちらかだ。本当にフルタイムで現場で働き、他の職員と同じように夜勤もこなして、容赦ないナンセンスコールで一晩100回以上対応してみればいい。とてもじゃないがそんなシンパシーの無い正論は吐けまい。理想論を語るのは簡単だ。しかし、それを実行することは別問題だ。
言っておくが介護職員も人間だ。前にも語った事があるが虐待や利用者との口論をする職員は別に異常者でもなんでもない。それどろか真面目な人が多い。利用者と口論になった後、涙を流すくらい自責の念に苦しむ人もいる。業務のストレスとプレッシャーで余裕を失い、冷静に対処できないのだ。
今回はここまでにしよう。このテーマは奥が深い。しかし、このまま終わらせてはただの介護者の愚痴になってしまう。次は対策も含めてもっと掘り下げて語りたい。
エル・ドマドール
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