第77回 救急対応

2018年11月11日

「苦しい!苦しい!」「助けて、助けて!」

こんにちわ、永礼盟です。ご購読ありがとうございます。大分涼しくなって参りました。もう既に秋。時には、冬ではないかと思う程の陽気。体調崩されていませんか? 先日、介助中に体調が急変した方がいらっしゃいました。久しぶりの救急対応に、自分の今の位置が解った気がします。

今まで元気だった方なのですが、介助中急に苦しみだしました。悪寒で震え、声にならない声で「苦しい、苦しい、アァァァ助けて!」そう訴えだしたのです。敏速な対応を強いられます。その時に思った事が、「なんで、自分なんだ」でした。沢山いる職員の中で、なぜ自分が介助した時にこう言う状態が起こるんだと、その場を呪いました。その思いを持った事に、今の自分の介護に対する意識の低下を確認したのでした。

居室で起こった体調の急変に、まずナースコールを押します。その場を離れて看護師を呼びに行くか、その場で看護師が持っている携帯電話に電話しようか、迷ってからナースコールをしました。他の職員が「どうされました?」そう応答します。「永礼です。ちょっと、香川さんの様子が急変したので、看護師の井上さんを呼んで下さい」そう伝えました。自分は、こういう時にパニックにならないよう声のトーンを落とすよう心がけています。「香川さんが大変!早く来て!!」等と怒鳴ってしまうと、現状が更に混乱してしまうからです。でも、怒鳴れたら自分の心は楽になるんだろうと思います。

すぐにナースが駆け付けてくれ、対応してくれます。自分が行った応急処置は、カーディガンを着せ、ベッドに側臥位をとらせ、声かけを行った事です。頭の中では、バイタルサインと検温で情報をとる事も視野に入れましたが、その思いを噛み締めながらナースが来るのを待ったのです。こう言う時って、時間が異様に長く感じる物ですが、ナースはすぐに駆け付けてくれました。その連絡がスムーズに行ったと思われ、逆の場合を頭で想像してしまう自分がいました。

ここにナースが来なかったら、自分は香川さんを放置した事になるのだろうか? その葛藤で、何度も居室から出て看護師を探そうと思いましたが、待ちました。ちょうどナースの携帯に連絡を入れようと思った時、井上さんの姿が見えました。ナースコールのログからも、その時間が1~2分である事が解ります。その数分が、何倍もの時間に感じ、色々なマイナスイメージが頭をよぎります。何度も救急対応をした経験がありますが、決して慣れる物ではないですね。半狂乱で苦しみを訴える人に、平常心を装い声かけを続けるって、簡単なようで難しいです。その状態、その状態での対応ってあると思うのですが、その真っただ中にいると大変不安に感じます。

検温、バイタルサイン、血中濃度酸素を計り、首をふるナースから救急対応の指示が出ます。すぐに救急車を要請し、リーダーに連絡を入れます。何度かリーダーに連絡を入れましたが留守なので、メッセージを残しました。本来なら、ここで家族にも連絡を入れるのですが、私はあえて連絡を入れませんでした。まだ救急隊も到着していないのに、家族に連絡なんて出来ません。ホームで対応出来ないから救急対応なので、私にはその状況下で家族に状況説明なんて出来なかったのです。リーダーから折り返し連絡が入り、救急対応した事を伝えます。「家族に連絡は?」リーダーがまず発した事はその言葉でした。「まだです。」「すぐに家族に連絡を取って下さい」リーダーからの指示で家族に連絡を入れました。「あら、永礼さんどうされたの?」とても優しい声のお嬢様が電話に出られます。「香川様の体調が急変されたので、看護師の指示で救急対応をとらせていただきました。リーダーからの指示でお嬢様宅へ一報入れさせていただいた次第です。」現状を伝えると、お嬢様の声が一変し、「病院は何処ですか?すぐに向かいます。」そう言われました。私は、「今救急隊が到着した所なので、搬送先はまだ不明です。病院が決まり次第こちらから連絡させていただきます。」そう言うのが精一杯でした。

ホームとの連携を大事にするリーダーが、まず家族へ連絡と言った気持ちが痛い程解るので、今起こっている現状下で連絡が出来なかった自分を責めます。仕事ですが、家族に連絡を入れる事を躊躇してしまったのです。

搬送先が決まり、再度ご家族に連絡します。同時にリーダーへ報告し救急車に乗り込みます。救急車の中でも苦しむ香川様の様態は変わりません。その声を黙って受け入れました。

病院での診察で、たいした事はないと診断されました。病院で、リーダーに今までの経過を申し送り、ホームに戻りました。リーダーからは、なぜ家族に連絡しなかったのかを問われ、現状を優先した事を伝えました。「その理由があるならば良い」そう言って、自分をホームに帰しました。

ナースコールをとってくれた職員から、「永礼さんの声、焦りでいっぱいでしたね」そう言われ、驚きました。声を殺し、パニックを起こさないようにした自分を否定されました。案外焦りは外に出るんですね。このホームに、自分の存在価値がない事を改めて思い知らされました。

上からの圧力と、自分のその場での感情、下からの見下し、沢山の救急対応をこなしているのに何も成長がない事に、情けない気持ちでいっぱいです。

ただ1つ、香川様が元気になられたと言う事だけが自分の救いです。私はその状況を見て、心臓に異常があっての事なのかと思ってしまったので、大した事が無くて本当に良かったです。ナースの指示もあった事ですが、今後状況判断は冷静にしなくてはと、前向きに思う自分と、色々な邪念に耐えられずにいる自分がいるのでした。

2004.10.13

永礼盟