[49]眠れぬ人々

今回は少し医療の分野にも関わることを語ろう。
暑い日が続き、読者諸兄の中にもなかなか眠れない日を続けている人もいるだろう。今回のテーマは「眠れぬ人々」。不眠症で悩む利用者たちについて語ろう。別に不眠症に悩んでいるのは施設に住んでいる人だけではない。一般の人たちも不眠症に悩み、薬のお世話になっている人もいるかもしれない。そのような人たちにもお役に立てるのではないかと思う。是非参考にして欲しい。
一般の人にも多いが、施設に住んでいる人の中には不眠症で眠れない人々が多くいる。施設で不眠症に苦しむ人の場合、深夜に徘徊などされると管理に苦しむため多くの場合安直に睡眠薬を処方して投与しているのが現状だ。利用者を管理しやすくするために睡眠薬に頼るのはおかしいのでは??と思う人もいるだろう。今回はその点については議論は後回しにしたい。
俺はいつも現場で睡眠薬を投与する立場にあるが、こんなものやめるべきだと常々思っている。深夜に眠れないとナンセンスコールや徘徊などされて厄介なトラブルになるから、主治医に睡眠薬を処方してもらう・・・・その目的の是非はともかく、現実は利用者に安眠を与えるという目的さえ果たせていないのだ。睡眠薬を与えても、利用者は安眠を得ることはない。2,3時間ですぐ目が覚め、今度は自然入眠ができなくなるのだ。そして薬無しでは眠れない中毒状態になってしまっているのだ。皮肉なことに利用者を管理しやすくするために睡眠薬を投与しているのに逆に厄介なトラブルを増やしているのが現実なのだ。
ここで強調しておくが、もし安らかな睡眠を得たいのであれば
「絶 対 に 睡 眠 薬 を 内 服 し て は な ら な い」
多くの人はこのメッセージに矛盾を感じるだろう。眠るために睡眠薬を飲むのではないか?俺もかつてはそう信じていた。しかし、11年以上の勤務で見てきたものはそれとは逆の光景だった。もう一度これだけは強調しておく。健康的に眠りたいなら睡眠薬だけは飲んではならない。もしあなたが幸運にもまだ処方されたばかりで内服していないなら、錠剤を全部トイレに流してしまうべきだ。
施設でどうして多くの人が不眠で苦しむのだろうか?その理由を説明しよう。まず
(1)施設では活動量が足りない。
が当てはまるだろう。殆どの施設で入居者は運動不足だ。上げ膳、下げ膳で食事は自分が作らなくても勝手に出てくる。洗濯、掃除は施設がしてくれる。どこかに出かけようと思っても施設は大抵軟禁状態か、もしくは本人に運動能力がないから介助がないと出かけることもできない。こんな環境で生活すれば誰でも運動不足で疲れないだろう。深夜になってもろくに働いていないのだから利用者は活力が有り余っている。だから眠れないのだ。
そして施設はギリギリの介助職員しか配置していない。排泄、入浴、更衣、食事など基本的な日常生活を援助するだけで精一杯なのだ。趣味やリハビリ、レクリエーションなどの文化的援助もないわけじゃないが、焼け石に水程度。とてもじゃないが利用者に生きがいや娯楽性など文化的要素をふんだんに与えられるモノじゃない。利用者が昼間退屈にしている時間帯はベッドに釘付けにしているか、テレビをぼんやりと見せているかどちらかだ。
不眠対策にはいろんな対策が提案されている。カフェインやアルコールを避ける。ベッドや部屋の環境を変える。PCやテレビなど刺激のあるものを避けるなどなど。しかし、俺に言わせれば不眠に苦しむ人の大半はただ単に疲れていないだけだ。疲れていれば必ず本能で体力を回復するために眠たくなる。現に現代人の多くは運動不足だ。利用者でも夜「眠れない」と職員に泣きついてくる人はいるが、大抵昼間に惰眠を貪っているものだ。不眠に苦しむ人の多くはそもそもの生活習慣から見直す必要がある。
(2)内服薬の副作用
さてこれが一番問題だが、先ほど冒頭で「絶対睡眠薬を服用してはならい」と強調した。なぜだか解るだろうか?答えは簡単だ。睡眠薬の副作用は不眠そのものだからだ。冗談のようだが本当の話だ。不眠症に苦しむ人は睡眠薬によってより重度の不眠に陥っているのが現実だ。こんな事を言うと「現に睡眠薬を飲んだら眠れるじゃないか?!」と疑問の声があがる。確かに睡眠薬には入眠作用はある。しかし、入眠作用は数時間で弱くなり、今度は不眠作用が強くなってしまうのだ。そして睡眠薬には例外なく副作用として依存症が出てくる。今度は薬無しでは入眠できなくなってしまうのだ。スタンフォード大学睡眠障害クリニックの調査では不眠症患者の4割が睡眠薬で眠れなくなり、薬を中止すると睡眠時間が2割増えるとのことだ。
断っておくが睡眠薬の恐ろしさは不眠だけじゃない。睡眠薬の副作用は身の毛がよだつものが多い。まずよく使われているベンゾジアゼピン系の薬から紹介しよう。
プロチゾラム・・・・(商標名・レンドルミン、アネムゾンなど)
副作用:依存症、健忘症、眠気、ふらつき、脱力感、運動失調、不安、不眠、イライラ、嘔吐感、震え、痙攣、混乱、せん妄、呼吸障害(息苦しい、窒息感、頭痛など)、肝臓障害(食欲不振、黄疸、尿が褐色になる)、緑内障、筋無力症の人には服用不可。
ベンゾジアゼピン系の薬は他にもまだまだあるが今回は割愛する。レンドルミンはよく使われている睡眠薬だが、副作用を見ればおそらく誰も服用する気分にはならないだろう。緑内障の人は服用を重ねれば失明する可能性もある。睡眠薬だけではなく、他の薬にしても知っておかなければならないのは必ず副作用があるということだ。しかも睡眠薬や精神安定剤などは依存症があるために止めたくなってもいきなり中止にできないことが殆どだ。いきなり服用を中止すると禁断症状が出るために少しずつ減らさなくてはならないのだ。
「毒性のない薬はもはや薬ではない」
この言葉は誰が語ったのか知っているだろうか?なんと製薬会社の創業者、イーライ・リリー自身だ。
今回は薬について語った。俺は猛獣使いと諸君に自称しているが、実を言うと現代医学の反逆者でもある。機会があれば現代医学についても真実を話そう。
エル・ドマドール