[77]生活保護(2)派遣村について

2018年8月25日

本来はこのテーマを書くつもりは無かった。知的障害者を書いたばかりなのでその関連について語ろうかと本当は考えていた。しかも、生活保護についてはその本質を第9号で書いたし、新たに書かなければならない事はないはずだった。
しかし、近日生活保護のニュースが世間を賑わせている。その事は読者諸君も何度か見たり聞いたりしているだろう。この原稿を書いている今も広島県で市職員が交際を断られた腹いせに被保護者の女性に無理矢理生活保護を辞退させようとした事件が報道されている。また去年12月には京都市で更生保護施設に入所している人が一人で来た場合の生活保護申請を無条件で拒否するなどの問題が発覚した。(更生保護施設とはこの場合、刑務所から出所してきた人が保護や援助を受ける施設)
他にも生活保護の不正受給事件など、生活保護にまつわる騒動は拡大こそすれ、収まる気配は未だ見せていない。そしてこの冬最も生活保護が注目されたのは例の「派遣村」だろう。この時は生活保護を受けるべきか否か熱い論争になった。このような騒動を見るにつれ、俺も何か生活保護について語らなければならないと衝動に駆られた。そこで今回は俺も新たに生活保護について語ろう。
派遣村の生活保護
去年の暮れから世界の金融危機が原因で大企業がリストラに迫られ、その結果「派遣切り」の問題が発生した。その危機に対応するべくNPOなどの主催で日比谷公園に設けられたのが例の派遣村だった。この派遣村は段々大きくなり、とうとう500人が利用したそうだが、その際多くの利用者が生活保護を申請した事が問題になった。しかも面接を受けるための交通費を支給するように要望。超法規的措置で支給される事になったために世間からの同情ばかりではなく、非難まで浴びる事になってしまった。
「本当に困っているという必死さが足りない」
「仕事を選り好みしている」
「生活保護に交通費なんて貰いすぎ」
「努力もしないで生活保護なんておかしい」・・・・
派遣切りだけならこんなに非難される事は無かっただろうが、やはり生活保護
が絡むと同情が敵意に変わるようだ。
昔高度成長期の頃などは社会の人々は他人が生活保護を受けてもそんなに目くじらを立てなかった。豊かだったためにまだ寛容(無関心?)だったのだ。しかし、今は違う。トヨタのような一流企業でさえ赤字転落する現在、無節操な生活保護支給には厳しい目が寄せられている。しかも報道によれば東京都は新宿駅前に臨時の職業紹介所を設置した。求人のストックは1000件以上あったのだが、1月5日までにやってきたのはたった12人だったと言う。一方で500人近い近い人々が何もせずに派遣村にいて生活保護を申請しようとしていた。確かにこれでは真面目に働いて税金を納めている国民の理解は得られないだろう。しかも働けないほどの障害や疾病を抱えているわけではないから尚更だ。
しかし、生活保護を受ける彼らのことを良く知る必要があるのではないかと俺は提案したい。彼らは所謂「下流社会」に属する人々と解釈して差し支えないだろうと思うが、その「下流社会」について書かれた本がある。三浦展氏の著書「下流社会 新たな階層集団の出現」がそうだ。この本には下流という人々がどんな人々なのか解説している。それによると下流とは必ずしも単に所得が低いということではない。三浦氏は彼らは総じて「意欲」が無い人々だと喝破している。彼らは働く意欲、学ぶ意欲や苦難を自分に課す自己規律能力がない。それが下流だと言うのだ。つまり厳しい事を言うようだが、派遣切りされた人々は自分に甘くやるべき努力をしていない人々とも言える訳だ。
しかし、派遣切りされた人々だけを「自己責任」と切り捨てるのはあまりにもアンフェアだ。彼らにもそれなりの言い分がある。思い出して欲しいのだが、実を言うと転職をするのにもそれなりのお金が必要なのだ。先ほど非難の的になった交通費も確かに必要だし、面接に望むならそれなりの身奇麗なスーツもいる。こんな出費は普通の人には何でも無いだろうが、彼らには非常に厳しいものだ。特に派遣切りされた人の中には寮を追い出されて住所が無い人もいる。また料金を払えないために携帯電話が使えない人もいる。住所も無い、スーツも着てこない、連絡先もないのではいい就職先は見つからないに決まっている。あの派遣村に来た人たちは今日食うものにも事欠く人たちである事を忘れてはならない。生活費に困っているからこそ職が必要なのに、お金がないとまともな職すら手に入らない。皮肉なようだがそういう現実があるのだ。
日本では自立生活から生活保護に至るまでの中間の福祉政策が全く無い事も知る必要がある。例えば東京都はホームレスになった失業者を対象として40万円を無利子で貸す生活サポート特別貸付事業を行っている。他にも社会福祉協議会や地方自治体などがいろんな独自の福祉サービスを行っているが、殆ど機能していない。役所も敢えてそういう制度があることを積極的に広報しないし、もしそれを求めて失業者が来たら生活保護行政同様の「水際作戦」をして対象者を追い払うだろう。派遣切りされた人々が生活保護を求めるのはそういった事情があるのだ。
しかし、こういった被保護者の事情を知っても
「本当に困っているならもっと必死に職探しをするだろ!生活保護に甘えているだけじゃないのか?」
と疑う人はいるだろう。俺はそれは否定できない。俺自身もやはり現場で被保護者の甘えやだらしなさを何度も見てきているからだ。だが、生活保護無しで彼らが自力で職を見つけられるかと言えば、それは酷な注文であることも事実だ。
果たして生活保護を得た彼らが真面目に就職活動をして職を見つけて、生活保護を返上できるかというとかなり望み薄だと言わざるを得ない。人間楽してお金がもらえるなら楽な方を選ぶ傾向が強い。これは受給者を非難する立場の人たちも同じなのだ。現になんだかんだと批判しても定額給付金は貰うではないか?
エル・ドマドール

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