[78]認知症ドライバー

2018年8月25日

2008年から75歳以上の高齢者が運転する場合、本来もみじマークを付けるように義務化されるはずだった。表示義務に違反した場合の罰則は反則金4000円と違反点数1点のはずだった。なぜ「はずだった」と過去形なのかと言うと、高齢者の反対がすさまじく高齢者に配慮した政治家たちが罰則なしの努力義務にトーンダウンしたためだった。
確かに高齢者だと言うだけであんな趣味の悪いマグネットを車体に貼り付けるのは屈辱的だ。高齢者が反対するのは無理もない。元々もみじマークの本当の目的は近年増えつつある高齢者ドライバーの事故を未然に防ぐためだった。実際統計でも高齢者の事故割合は増えている。参考までに下のサイトを見てみよう。
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2009/01/post_4371.html
確かに65歳以上のドライバーの死亡者は98年の32.7パーセントから2008年は5割近くまで増えている。交通事故死亡者の半数が高齢者とは驚くべき数字だろう。これだけ見れば高齢者の事故は増えているのかもしれない。しかし、統計をよく見ればその本質的な意味はまったく違う。
まず着目してほしいのだが、98年には1万人近い死亡者が2008年には6,000人弱にまで激減している。自動車の安全性が高くなった、飲酒運転への厳罰化が効果を上げているとも言えるだろう。しかし、俺は経済的に苦しい若者が自動車に乗らない(乗れない)のが原因だと解釈している。現に車メーカーは今、未曾有の不況で青息吐息の状況だ。車を持っているのは経済的に恵まれた中高年層が多く、死亡者も当然中高年が多くなる。高齢者の事故が増えているのではなく、若者の事故が相対的に減っているというべきだろう。「高齢者が事故を起こしやすい」というのは単なる偏見に他ならない。
だが、こんな馬鹿げたもみじマーク騒動の渦中に深刻な問題が潜んでいる。結論から言えば政治家たちはこんな趣味の悪いマグネットなど後回しにしてこの問題を議論すべきだった。高齢者の交通事故の中には認知症のドライバーが起こしたものが多いのだ。最近よく耳にする高速道路の逆走などもまさしくそうだった。高速道路を走っていたらあなたの車に向かって逆走してくる車が目の前に・・・・まさしく恐怖だ。
認知症ドライバーの増加について警察庁は簡易テストを75歳以上のドライバーに今年6月から免許更新時に実施する予定だが、こんなものでは効果はない。なぜならある統計では事故の半数が75歳以下の高齢者だったからだ。簡易テストを65歳から求める声は専門家からも多い。そして簡易テストで不合格であればすぐに認知症ドライバーから免許を剥奪できるかといえば、そうではない。簡易テストで不合格になった場合、まず認知症の診断書を医師に求める。そして医師の診断書を見て公安委員会が最終的に判断すると言う。呆れてものが言えない。こんな時間の無駄としか思えないお役所手続きで認知症ドライバーの事故が減るわけがない。
言っておくが認知症ドライバーについてはアメリカでも問題になっている。そしてどこでも認知症ドライバーが自ら免許を手放すことはありえない。老人介護をしている人ならわかるだろうが、認知症老人が自ら免許を手放すほど物分りがよければ老人介護は世界一楽な仕事だろう。現に認知症ドライバーは推定30万人いるが、免許を返上したのはわずか3万人弱。その3万人の中で認知症だった人はどのくらいなのかはわからない。大部分の認知症ドライバーは今もなお車のハンドルを握っているのだ。
先ほども言ったように認知症ドライバーが自ら免許を返上することなどまず有り得ない。運転している高齢者が認知症になっているのではないかと妻や娘、息子などが気付き、運転を止めさせようとしてもまずは本人の頑強な抵抗に遭う。運転できることは自分の与えられた社会的役割の象徴と言ってもいい。立派な自立した人間としてのアイデンティティーとしてのドライビングを捨てることに同意しないのは当然と言ってもいい。自分を冷静に客観視できないのが認知症の弱点なのだ。だからこそ国家権力で強制的に奪い去るしか方法がないのだ。
認知症判断は医師にしかできないのが建前だが、そんなものはっきり言って誰にでもできる。病院でやるような認知症診断テストでもいいが、一つ注意することがある。認知症の症状の一つに記憶障害があるが、記憶障害は基本的な運転技術や標識の意味にあまり影響しないのだ。なぜなら運転技術も標識も長期記憶に属すからだ。一番重要なのは判断力および知的能力の低下であることを強調しておく。100から6づつ引いていく計算問題などが非常に効果的だ。
また現在の免許更新制度は3年に1度しかないが、できれば高齢者の場合毎年するべきだ。なぜなら認知症の症状は短期間で急速に進むことが珍しくないからだ。また医療と警察庁の連携を進め、認知症と診断された人の情報を警察庁に届けることも必要だろう。個人情報の観点からこれらの方策には否定的な意見も多いだろう。そもそも認知症の人々から強制的に免許を取り上げること自体議論を招くこと必至だ。だが、飲酒運転であれだけ罰則が厳しいのに認知症ドライバーに対しては無策に等しいのは許されない。これから認知症ドライバーはますます増える。5年後、10年後のことを考えたら強制的に認知症ドライバーから免許を取り上げることが必要なのだ。
以上の意見を聞くと俺がまるで高齢者を敵視していると思う人もいるだろう。ここで言っておきたいが俺が問題にしているのは高齢者ではなく、認知症ドライバーが平気でハンドルを握る現状になのだ。認知症ドライバーが事故を起こして悲惨なのは被害者ばかりではない。加害者だって悲劇なのだ。中には事故を起こしてそのまま逃げてしまった認知症ドライバーもいる。そうなるとひき逃げで逮捕されても心神喪失状態で無罪になってしまう。裁かれるべき人間が裁かれないなら世論がどう反応するのか?それは言うまでもないだろう。
エル・ドマドール
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