[80]自閉症
以前、知的障害者についてシリーズでどういう人々なのか説明してきた。しかし、自閉症やダウン症など個々の知的障害の原因疾患についてはさわりしか語っていない。74号で自閉症について大まかに説明したが、まだまだ自閉症について知らなければならないことがあるのだ。アカデミー分野などで語られる自閉症はやたらと難解な用語や理論が多くわかりにくいのが現実だ。今回はそれらを誰にでもわかりやすく解説したい。
(1)定義
よくうつ傾向にある人や、他人とコミュニケーションを取りたがらない人々を揶揄して自閉的と言うが、それは偏見を助長する見解だと強調しておく。本物の自閉症児はそんなものではない。知的障害=自閉症と思われていることが少なくないが、少しそれは違う。自閉症が知的障害の原因疾患になることが多いが、全ての自閉症児が知能が低いわけではない。まれに健常者以上の知能をもつ「アスペルガー症候群」、「高機能自閉症」と呼ばれる人もいる。しかし、自閉症といえば知的障害を併発している人々を指すことが多い。彼らを前提として自閉症を語りたい。
自閉症とはいったい何か?それは先天的な脳機能障害による発達障害が原因で、健常者のようなスムーズなコミュニケーションが取れない障害なのだ。つまり、彼らは言いたい事を適切に表現するのが難しく、また他人から言われたことに対して適切に反応するのが難しい。そのため何を言われても何をされても無言だったり、脈絡のないところで大声を出すなど、誤解される事が少なくない。自閉症とは突き詰めれば他人との意思疎通が難しい障害なのだ。
(2)原因
どうして自閉症児が生まれるのかについては結論から述べると今のところわかってはいない。遺伝、高齢出産などが原因ではないかという仮説もあるが、未だはっきりしない。自閉症など知的障害をもつ子供が生まれると、家系に原因があるのではないかと疑われることが少なくない。しかし、それは偏見であることを言っておく。自閉症は人種も関係ないし、ましてや育て方や生活習慣とは全く関係ない。
(3)てんかん発作
自閉症の原因はよくわかっていない。しかし、自閉症が脳機能障害であることははっきりしている。そのためか自閉症児にはてんかん(癲癇)発作の現病が多く見られる。てんかんとはわかりやすく言えば脳の内部で異常放電が起こり、痙攣や失神を起こすことである。発作が起きても様子を観察するだけでいいが、入浴中などに起こると危険なので注意が必要である。
(4)こだわり行為
「同じ服しか着ない」「水道の水を規則的に開閉する」「本を特定の順番に並べる。誰かが動かすと強引にでも元に戻す」などなど自閉症=こだわり行為と言ってもいいぐらい自閉症児は大なり小なり何らかのこだわり行為がある。
第76号で語ったように知的障害者はルーチンワークに強いが、自閉症児はとりわけその傾向が強い。それを象徴するのがこだわり行為なのだ。こだわり行為が大好きなのは自閉症ばかりではない。健常者だって同じだ。ジンクス、ゲン担ぎ、マニュアル化、整理整頓など健常者の中にもこだわり行為が大好きな人は多い。しかし、自閉症児のこだわり行為に対する執着は文字通り病的と言ってもいいぐらい強い。健常者はいざとなれば自分のこだわりを捨てて、臨機応変に対応することができるが、自閉症児はどんなことがあってもこだわりを捨てることがなかなかできない。彼らは「こだわり」に命や人生を掛けていると言っても過言ではない。その柔軟性の無さが自閉症という障害をより困難にしているのだ。しかも恐ろしいことに暴力行為、自傷行為、破壊行為などに拘る人もいる。
自閉症児がなぜこだわりにあれだけ執着するのかはまだ判ってはいない。しかし、健常者がジンクスやマニュアルなどに「こだわる」のは不安やストレスから逃れるためだ。それと同じく自閉症の人もストレスを感じるとよりこだわりに対する脅迫が強くなる。自閉症児にこだわりを止めさせるのは不可能だが、無駄なストレスを掛けないことが事態を悪化させない方法であることを理解しておこう。
ストレスを掛けるのは良くないが、だからといって周りの人に迷惑を掛けるくらいこだわりを放置する事はできない。もし、それが暴力など危険なものであれば尚更だ。どのぐらいでこだわりを止めるのか?それは非常に難しい判断だ。自閉症児と付き合う場合、この問題はどこにでもついて回ると思って欲しい。
(5)TEACCHプログラム
TEACCHとはTreatment and Education of Autistic and related CommunicationHandicapped Childrenの略称である。ティーチと発音する。日本語の意味としては「自閉症及びそれに関連するコミュニケーション障害を持つ子供の治療と教育」知的障害者福祉関係者なら一度はティーチプログラムを聞いたことがあるだろう。だが、その意味はほとんど答えられないのが現状だ。そこで今回は俺がわかりやすく答えよう。
結論から言おう。ティーチプログラムは全く役に立たない机上の空論だ。知的障害者を援助する人々や教育機関の人々が聞いたら気分を害すだろうが、本当の事だ。そうでないなら具体的に説明するべきだ。どうしてティーチプログラムについて知的障害者の福祉関係者でさえろくに答えられないか?具体性がないからだ。
指導のカリキュラムは非常に立派だ。「広いコミュニケーションを目指す」「適切な職業技能、学習行動、対人行動を身に付けさせる」・・・・だが、それらを実践するにはどうしたらいいのかという具体性がどこにも書かれていない。「適切な対人行動を身に付ける」のは確かに大事だ。だが、それにはどうすればいいのか?どんな援助が必要なのか?それこそが問題なのだ。それが簡単に判るなら苦労しない。だから机上の空論なのだ。
(6)人間関係
自閉症とは先ほども言ったように他人と意思疎通が難しい障害だ。声を掛けても、注意をしてもなかなか相手が言うことを聞いてくれないことが多い。そこでどうすればいいのだろうか?実を言うと、自閉症児に指導をしたり、コミュニケーションを取るためにはそれなりの「関係」が必要なのだ。自閉症児は極端に言えば肉親や親友以外の人間の言う事は耳を貸さなくてもいいと考える人たちだ。まずは彼らと肉親並みの強い人間関係を構築することが必要なのだ。「関係」を作るには食事を一緒にする、遊ぶ、介護をする、話す、仕事をするなど何らかの共同作業をすれば自然にできてくるだろう。とにかく自閉症に限らず、知的障害者たちと関わるには人間関係が必要なことを覚えておこう。
エル・ドマドール
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