[82]福祉割引の悪用

2018年8月25日

今例の郵便法違反事件のことが巷をにぎわせている。諸君も何度も新聞やテレビで見たり聞いたりしているだろう。1月に新生企業の経営者が逮捕されてから今やベスト電器や博報堂子会社の社員も逮捕され、郵便事業会社にも捜索が入った。この事件を現段階で簡単に説明すると、本来一通120円かかるダイレクトメールを第三種郵便を悪用して一通8円ぐらいで送り、正規の郵便料金との差額200億円を支払わなかった詐欺事件である。ちなみに第三種郵便とは障害者団体などが特別料金で郵便を送れる制度である。いろいろ条件があるが、この制度を利用すれば120円かかる封書がなんと8円で送ることができるのだ。新生企業はこの制度を悪用し差額200億円以上の支払いを逃れていたことが判明したのだ。
読者の中には複雑でわかりにくいこの郵便法違反事件を詳しく説明してくれるのを望んでいる人もいるかもしれない。しかし、この事件はまだまだ全容が解明されていないため、今回はこの程度にしておこう。それよりも今回は福祉割引の悪用実態をあなたたちに語ろう。
今回のような福祉を盾にした詐欺事件に憤りを覚える人は少なくないだろう。しかし、俺はくどいようだがここでも言いたい。今回のような福祉制度の悪用は初めてではない。それどころかそこらじゅうに掃いて捨てるほどこのような偽善行為は福祉の世界では蔓延っている。俺自身もこんな体験をしている。
障害者施設に勤めていたころ、よく利用者の家族は自動車税減免の申請書を持ってきては印鑑を押してくれと職員に言うことがあった。自動車税減免には障害者本人が入所している事を証明しなければならなかった。だが、俺はその時からこの制度にかなりの疑問を感じていた。自動車税を減免する理由はあくまでも「障害者本人のために車を使用するのであればその負担を軽減しよう」ということのはずだ。家族にもよるが、2,3ヶ月に1回の面会、半年に1回の一泊二日の外泊程度では「障害者のために車を使っている」とは言えないのではないだろうか。真面目に自動車税を払う身になるとこれは自動車税減免の理由になるとは思えなかった。
上記の例はまだグレーゾーンかもしれない。だが、もっとひどいのになると、たとえ健常者だけしか使わなくても障害者の家族がいれば、その名義で自動車を購入して自動車取得税、消費税、自動車税、購入資金助成などの恩恵を受けるろくでなしが存在していた。駐車禁止除外指定車標章にしてもそうだ。いわゆる「どこでも駐車券」と言われるラミネートの札をダッシュボードの上に乗せて置けば切符を切られる心配が無い。駐車監視員に怯える一般人からすれば垂涎の的だろう。このラミネート札がベンツやセルシオのような3ナンバーの車に乗っているのをよく見るが、本当に障害者が乗っているのだろうか?そんな馬鹿なわけがない。一説によるとこういう車でどこでも駐車券を使っているのは医師に多いらしいが、モラルも何もあったものではない。
そして多くの人が誤解しているようだが、このラミネート札は全ての駐車違反を免除するものではない。免除されるのは障害者本人運転している場合と同乗している場合のみだ。つまり、障害者が関与していない場合はあの札を置いていても駐車禁止違反になるのだ。ところが警察も駐車監視員もこのような詐欺行為と戦おうとはしない。これでは本当にあのラミネート札を必要としている人が迷惑ではないか。
またデイサービス事業所や在宅介護をしている人にはこの制度のことに疎く、どこでも駐車券を持っていないところも多い。本当に必要な人に福祉の恩恵が届いていないのだ。
健常者が障害者や老人のための優遇制度を悪用している実態は何も駐車禁止指定車標章だけではない。自動車税、自動車取得税、購入資金助成、タクシーチケット、高齢者優待によるバスや地下鉄の無料パス。これらの制度の是非についてはともかく、これらの優待制度は障害者や老人のためにあったはずだ。しかし、現実には健常者に乱用されている実態があるのだ。しかもこのような恥知らずの悪用を取り締まる法律はないときている。行政も福祉界もなぜかこのことには及び腰で何もしようとしない。
特に自動車に対する優待制度については「優遇されすぎでは?」という声も少なくない。ここでそれに対する説明をしておこう。障害者のドライバーは一般人とは違い、どうしても特殊な装置が必要になる。足の代わりに手でブレーキをかける装置など、数が少ないためどうしても割高になる。大体6割から7割ぐらい一般車よりも値段が上がる。各自治体に購入資金の助成はあるが、それも10万円ぐらい(神戸市の場合)が多く、自動車税や自動車取得税の免除があってもあまり助けになっていないのが実情なのだ。健常者は普通の既製の安い車に乗ることができるのだ。自動車税の支払いを逃れるなど社会的な人間として到底許せるものではない。恥を知るべきだ。
エル・ドマドール
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