[120]杖

2018年8月25日

普段の日常生活でも杖を使う人々を見ることはそう珍しくないだろう。多くの自治体が65歳以上の高齢者に杖を一度に限り無料で配布しているためか、街中でも杖を使う高齢者を見ることは多い。しかし、与えられた杖を正しく使いこなしている人は案外少ない。俺が街中で見る高齢者でもはっきり言って杖を使いこなせているのは2割か1割くらいがいいところだ。自治体も配布の際は「歩くのが不自由で杖が必要な方」と限定しているはずだが、使いこなせるかどうかは全くチェックしていないようだ。正直言うとあんないい加減な配布は中止するべきだと俺は主張したい。あの杖の無料配布は当たり前だが税金を使っているのだ。ろくに必要かそうでないか調べずに配布するのは業者を喜ばせるだけだ。
ここで言っておくが、杖を正しく使用するのは意外と難しい。「杖ぐらい誰でも使えるだろう?」と思う人が多いかもしれないがそれは偏見だ。まず持っている杖が適切な長さでない人もいる。杖は人によって適切な長さが違う。杖を持って垂直に地面に立てた時に少し肘が曲がるぐらいがちょうどいい長さだ。そして状況によって使用する杖は選ばなければならない。特にリハビリや屋内で使う4点杖や3点杖は屋外では使ってはならない。なぜなら溝や穴に支点がはまりこんで思わぬ転倒や事故につながりかねないからだ。 また長さが変えられるタイプの杖もあるが、それもできれば避けた方がいい。なぜなら長さが変えられない杖よりも耐久性が劣るため壊れやすいためだ。腰椎圧迫骨折などで円背が進んだ場合を除き人間高齢になって大幅に体格が変わることなどないはずだ。
杖の選び方一つにしても簡単ではないが、問題は使う人だ。リハビリなどできちんと杖の使い方を教えられている人もいるが、無料配布された場合はきちんと使いこなせていない人が多い。そもそもその中には杖を使う必要性のない人もいる。よく観察してみると、杖をもっていても全く体重をかけていない人もいる。特に先端についているゴムキャップを2年間ぐらい全く交換していない場合は杖は不要だ。杖をきちんと使えば先端のゴムキャップは自然に摩耗するからだ。
「転ばぬ先の杖」とはよく言うが、はっきり言って杖に転倒予防効果はない。杖を持っていようが持っていなかろうが転倒の確率に関係ないし、怪我の予防効果もない。それどころか駅や電車、街中では他の通行人の足や荷物に当たったり逆に危険を呼び込むことが少なくない。
口論になった時に杖を振り上げる人がいるが、そんな真似が出来るなら杖は不要だ。単なる凶器になるので取り上げるべきだ。杖を振り上げたり、叩こうとする動作を想像するといい。両足に体重をかけられなければそんな真似はできないはずだ。税金で暴力を働く凶器を与えるなど言語道断だが、それがまかり通るのが福祉の世界なのだ。高齢者が起こす暴力事件は少なくない。特に認知症の人、もしくはすでに暴力行為の経歴のある人に杖を与えるのはくれぐれも慎重になるべきだろう。
杖の使い方は難しいと述べた。それはもっと正確に言うと杖の使える範囲が思った以上に限定されているとも言いかえられるのだ。円背が進み前傾姿勢が強い場合、どちらかと言えばシルバーカーの方が使いやすくお勧めしやすい。荷物にしかならない杖と違い、シルバーカーは疲れた時に座って休むことができるタイプのものもある。勿論溝などに要注意だがそれは杖も同じこと。杖よりもシルバーカーの方が用途が広く汎用性が高いのだ。
今回杖の有効性について疑問を呈した。言っておくが杖自体に問題はないし、全く役に立たないと言うわけではない。ただ単に有効な状況が限られていると言うだけなのだ。
エル・ドマドール
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