[23]資格
今回は福祉のメルマガらしく(?)社会福祉に携わる資格について語ろう。俺は全くお勧めしないが、未だに福祉に将来性ややりがいがあると錯覚して福祉界の門を叩く人が多い。その人たちがよく聞いてくることが「どういう資格が必要なのですか?」なのだ。そういう質問をされると俺は困ってしまう。状況によっては資格や経験はない方がいいケースもあるからだ。
そもそも福祉の資格を知る前に、資格には大きく分けて2種類あることを知って欲しい。その2種類とは「業務独占」と「名称独占」である。業務独占と名称独占では資格の価値や重みは天と地ほど違う。
業務独占とは医師免許や看護師、行政書士などその免許がないと業務ができない資格だ。それに対し名称独占とは中小企業診断士、管理栄養士などただ単に偉そうな名称を名乗ることができるだけの資格なのだ。フィナンシャルプランナーや産業カウンセラーも本人たちは嫌がるだろうがこの類の権威しかない。つまり名称が独占できるとは言うが裏返せば誰でも業務はできるため全く権威がなく、就職の際のアドバンテージにあまりならないのが名称独占なのだ。
そして福祉に関する資格は大部分が残念なことに名称独占に属する。福祉の資格で業務独占に当たるのはケアマネージャーぐらいだろう。ヘルパーは在宅介護に関しては業務独占でヘルパー以外は在宅介護はできないが、入所施設で勤務する場合は無資格者でも勤務できるためあまり意味がない。
社会福祉系の資格の殆どは名称独占だが、これは業務独占が多い医療系に比べるとやはり権威の無さが目立つ。俺は一応介護現場では10年以上のキャリアを持ち、ケアマネ、介護福祉士、社会福祉主事の資格があるが、それでも介護現場で働くだけなら介護未経験の素人と社会的には同じ立場なのだ。社会福祉自体、やはり社会的に低い評価を受けていると思わざるを得ない。
誤解しないで欲しいが俺は介護が簡単な仕事だと主張するわけではない。介護に必要な資質は多岐にわたる。基本的には誰にでもできる仕事だが、高いレベルに到達するならそれなりの技量を要求される。介護の知識だけではなく医療や心理学、社会制度の知識も必要になるし、おむつ交換などハードな業務に耐えられる体力もいる。そしていろんな生活暦を経ている利用者と話すために文化的教養もあれば役に立つ。また利用者の状態や心理を見抜く鋭い観察眼も必要だ。だが、現状ではベテランの介護福祉士も入りたての素人も社会的には同じ扱いを受けているのが現状だ。
同じ扱いならまだしも、下手するとベテランの介護福祉士よりも専門学校を出たばかりの新米介護職の方が大事にされるケースもある。どこの施設でも新卒の職員は常勤で、中途採用は非常勤で雇うケースが多い。技量は勿論中途の経験者の方が上だが、現実には新卒職員は無条件で常勤で雇われることが多く優遇されている。同じ仕事をしていて冷遇される中途職員の怨嗟は半端じゃない。
確かに介護福祉士や社会福祉士があれば、就職に有利になることが多い。しかし、資格が多いと言うことはそれはコストが高い事を意味する。だからこそ、コストが安く、世間知らずで騙しやすい若い無資格者を好む企業や法人が多いのだ。勿論無資格者ばかりだと介護のクォリティーはどうしても有資格者に比べると落ちる傾向がある。(無資格者でも能力のある人は有資格者よりもいい介護職になれる可能性はあるので誤解なきように)
しかし経営者の本音は利用者を死亡させなければ介護技術が多少お粗末でもかまわない。それよりも、コストを減らして収益を上げ表立って問題が無ければそれで良しというレベルなのだ。口では立派な理念を唱えても、本音は金しか関心が無い。勿論介護をビジネスにしてもいいのが介護保険の趣旨だから収益に拘るのが一概に悪いとは言わない。だが、それなら参入前にきちんと介護業界の構造を調べて将来のヴィジョンを持つべきだ。5号や6号の「介護はビジネスになるのか?」で述べたので詳しくは語らないが、福祉が儲からないのは最初からわかりきった話だ。ビジネスにしたいなら福祉に参入するべきではない。
話が横道にそれたが、俺の持論は介護福祉士、社会福祉士やヘルパー2級、ケアマネージャーなどを取るに越したことは無いが、それは他の看護師など業務独占の資格と比べると絶対的なものではない。あまり過大な期待はしないことだ。
介護保険以後、介護のクォリティーは低くなる一方だ。あまりにも介護の質の低下に頭を痛めた政府は将来介護福祉士を業務独占資格にして、介護福祉士以外は介護業務に就けないようにすると言われている。この話を真に受けて介護福祉士を目指している人は多いが、俺はこの業務独占化には眉唾物だと思っている。今でも介護業界はマンパワーが足りない。しかも、これから労働人口は減るが、要介護人口は増える。それなのにどうしてマンパワーの不足に拍車をかける政策を実行するのか?それとコストの高騰に頭を痛める業界側がそんな政策を呑むとは思えない。
政府や行政の口車に乗らないためには冷静な洞察力が必要だ。これが介護でもっとも必要な資質かもしれない。
エル・ドマドール
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