[22]ウイルス

以前俺は老裏5第14号「差別する介護職」で介護現場ではあまりにも非科学的で非理論的な偏見が蔓延っていると主張したことがある。その中の一文を引用しよう。
「―俺はいくつかの施設で感染症の対応を見てきたが、その殆どは差別主義と偏見に基づく過ちだった。科学が発達し、理論的に感染症の事が解明されてもやっていることは中世の魔女狩りと大差ないのだからあきれてしまう―」
普段謙虚に自分たちが偏見のとりこになっている事を認める福祉関係者はまずいない。多くの福祉関係者は利用者に対しての軽蔑観を認めないか、気づこうともしない。しかし、ノロウイルスでも疥癬でも、あるいはMRSAでも流行れば、どれだけ彼らが差別思想に捕り付かれているのか明らかになる。皮肉なことに感染症が奪うのは健康だけではない。彼らは福祉関係者の建前を奪い、醜い真実を白日のもとに晒すのだ。
*ノロウイルス
今のこの時期、多くの施設ではノロウイルスが流行っている所が珍しくない。ノロウイルスは感染すると、1日もしくは2日の潜伏期間を経て下痢と嘔吐を繰り返し、37度台の微熱が見られる。このノロウイルスは確かに感染力は凄いが、思った以上に過大評価されているきらいがある。恐ろしい病のように言うが、感染しても嘔吐と下痢を繰り返すだけでそう簡単に死亡するわけではない。よく「大人はすぐ回復するが、抵抗力のない子供や老人は死ぬケースもある」と言われるが、実際老人でもそう簡単には死亡まではいかない。風邪をこじらせて肺炎で死亡する老人がいるようにターミナル(末期)の場合はノロウイルスがたまたま原因になることがあるだけだ。実際、80代老人がある病院で亡くなっているが、その人は吐瀉物が気管に詰まったことによる窒息が原因だった。ノロウイルスそのものが死亡させたわけではないのだ。俺もこの業界で10年以上いて、俺自身も何回もこの病気に感染しているが今までノロウイルスが原因で死亡した人など見たことがない。恐ろしさで言えば餅を喉に詰らせる方がはるかに怖いのだ。
*殆どの対処は意味がない!!
ノロウイルスに感染した場合、いろんな対処法を専門家などから提案される。厚生労働省は以下のリンクでいろんな対処法を載せている。
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html#19
代表的なものといえば・・・
・介助の時には使い捨ての手袋を使う。
・手洗い・消毒を介助前後、料理前後行う。
・手すりなどを感染者が触ったときは塩素系消毒剤で消毒をする。
・感染した場合はなるべく隔離するようにし、洗濯物も別にして、よく消毒をおこなう
・感染者が使った食器は熱湯消毒し、塩素系洗剤でよく洗う。
・感染者の糞便や吐瀉物は使い捨てのガウンや手袋、マスクをしてペーパータオルなどでふき取り、処理したオムツやペーパータオルはビニールに密閉する。そして処理した後は塩素系洗剤を撒く。
物々しい対処法が書かれてあるが、結論から言わせて貰おう。こんな対策は無意味だ。まったく無意味どころか逆効果になりかねない。厚生労働省のノロウイルスに関する文章には致命的な欠陥がある。それはノロウイルスの感染力をまったく計算に入れていない事もあるが、実際の現場では上のような面倒な処理方法にこだわっていられないからだ。
ノロウイルスの感染力は我々が想像する以上に強力だ。ノロウイルスはたった100体いるだけで、症状を起こす。そして、嘔吐物や便の処理では少なくとも100万体から一億体のウイルスに直面するのだ。一番少ない100万体のウイルスの中のたった100体体内に侵入されるだけで症状を起こすのだ。つまりどれだけ丁寧に処理をしても1万分の1のウイルスの侵入を許せば、感染してしまうことになってしまう。しかもウイルスは100万体どころか、多いと1億体の可能性もある。人間のやることに完璧はありえない。衣服が色落ちするぐらい塩素系洗剤をふんだんに使っても、どれだけ手袋やマスクやエプロンでガードしてもウイルスを完璧に処理することなど事実上不可能になのだ。ノロウイルスの感染力は恐ろしいほど強い。床に吐かれた吐瀉物が乾燥してウイルスが空中に飛散して感染を起こすほどだ。
因みにアルコールや逆性石鹸などにウイルスを減少させる効果はまったくない。手洗いが大事だと良く言われているが、この場合ノロウイルスの予防にはならない。医療機関や嘆かわしいことに厚生労働省までもがマスクの着用を勧めているが、マスクは全く意味がない。今更という訳でもないが、介護現場や医療現場でも無意味なパフォーマンスが流行っているので理由も説明しておこう。人間が酸素を必要とする限り、もしくは口や鼻から酸素を吸入する限りウイルスも一緒に吸い込むしかない。酸素を通して、ウイルスのみ遮断するマスクなど現代の科学では開発不可能だからだ。吸気がこの様なら呼気も同じ事。マスクをしていれば周りにウイルスをばら撒かないように思えるが、実際にはマスク越しに咳をすればウイルスはマスクの細胞の隙間を通り抜けるだけなのだ。それどころか着用して10分もすればマスクが逆にウイルスや細菌を寄せてしまうのだ。
施設などでは発症者だけではなく、発症していない人まで部屋からの出入りを制限するなど隔離政策を取る所もあるが、これも止めた方がいい。食器なども紙製の使い捨てにする施設もあるというが、これもナンセンスだ。両方とも理由は同じだ。そんな事をしても感染は止められないからだ。施設と言う集団管理をしていること自体が感染を広める要因なのでどうすることもできないのだ。
*対処法??
ではどうすればいいのか?
極論になるが、方法は一つしか現在のところ思い当たらない。それは一度利用者や施設関係者が全員同じウイルスに感染して、抗体を身に付けるしかない。結局全員1ラウンド感染して発症し、完治するしかないのだ。厚生労働省や医療機関が勧める対応策は無意味だと俺がいくら主張していても、誰もそれに耳を傾けないのが真実だ。医療機関からのアドバイスを実施してもいい結果を得られた施設はないだろう。塩素系洗剤を使い、手洗いをいくらしても風邪をひいたことがない人間がいないようにウイルスからの感染を防ぐのはほぼ不可能に等しい。
*隔離政策の代償
上の対処法を見て、がっかりする人も多いだろう。しかし、現在の科学ではノロウイルスに勝つことはできないのだ。ましてや職員がビニールずくめになったり、利用者をばい菌扱いするような対処法は却って別の問題を起こしてしまう可能性が高い。
ノロウイルスに感染して、嘔吐と下痢で苦しんでいるときに自分に接してくる人間が手袋とマスク、エプロンをして恐る恐る近づいてきたらどう思うだろうか?吐き戻すのは胃液と食物だけじゃなく、信頼関係も含まれることに気づいて欲しいものだ。部屋からの出入りを制限したり、食器を使い捨てにするなど隔離政策も利用者を混乱させ、パニックに陥らせるだけなのだ。ノロウイルスはエボラでもなければ、テング熱でもない。たとえノロウイルスが流行っていても職員は落ち着いていつもどおり振舞うことが大事なのだ。
エル・ドマドール
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