[068]労災保険と健康保険

 

健康保険は業務外の災害により受けた疾病に対して保障されるのに対し、労災保険は業務上の災害に対して支払われる保険です。
 
労災の対象となるのは業務上の災害、負傷、疾病、傷害、死亡のほか、通勤災害も含まれます。労災保険は使用者が加入する保険で、一人でも労働者を雇えば強制的に加入義務があります。他の保険と違って、保険料は事業主が全額負担します。
 
健康保険は被保険者の業務外の傷病等について保険給付を行うよう定めてあるので、仕事中など業務上の事由による傷病等に付いては健康保険は使用できません。業務外での疾病を労災保険で賄うことはあまりありませんが、業務上の疾病を健康保険で治療することはよくあることですが、これは保険金詐欺になりますので注意しましょう。
 
労働基準法では、業務上の事由による傷病などに付いて使用者は、
 
  • 療養に必要な費用を負担し、
  • 休業補償を行い、
  • 障害が残った場合はその等級に応じた障害補償を行い、
  • 死亡した場合は葬祭料並びに
  • 遺族補償をしなければならない
と定めています。
 
しかも、使用者側の無過失でも責任を問われます。つまり、業務上の事由による被災労動者は、事業主にそれらの費用を請求することが出来るわけですが、そうなると事業の経営も支障をきたしかねません。ところが、これらの補償について労災保険等により災害補償される場合はその範囲で使用者はその補償の責を免れるとなっています。
 
つまり、本来は業務上の災害補償は使用者が行なうべきものなのですが、労災保険という制度を利用することにより莫大な補償を安い労災保険料でまかなうことができるわけです。
 
しかし、企業の安全な経営を補足する労災保険ですが、実は企業は労災保険を使うことをあまり好みません。業務上の災害が発生すれば労災を適用せざるを得ないのですが、労災保険からの給付はすぐ出か代わりに企業に厳しい調査が入ります。どうして労災適用になるような災害が起こったか、原因を追求され、改善を要求されます。企業としては当然の役目なのですが、あまりにも追求が厳しいので使用者が労災を使わず自社の経費で済ませてしまうこともあります。もちろん十分な給付がされればそれでも問題は無いのですが。
 
なお、労災保険制度は労働者一人一人に掛けるものではなく、事業所自体に掛けるものです。ですから健康保険のように個々に保険証はありません。また被保険者が労災か健康保険かを選ぶこともできません。

[067]雇用保険

 

雇用保険は労働者がやむを得ず失業状態になったときに各種の給付を行う保険です。
 
雇用保険の目的は、労働者の失業のほか、労働者が職業訓練を受けた場合に必要な給付を行い、労働者自身の生活及び雇用の安定を図ること、そして求職活動を容易にし就業を促進することにあります。
 
また、労働者の職業の安定を推進し、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発向上、その他労働者の福祉の増進を図ることも目的としています。
 
雇用保険は一部の水産業などを除き全事業所が適用範囲となります。現状ではほとんどの事業所で雇用保険は強制加入となっているはずです。ただし、労働者の雇用状態によっては個別の労働者に対しては適用を受けないこともあります。
 
◆65歳以上の人の場合は65歳以前から雇用されている場合は適用になりま すが、65歳を超えてから雇用された場合は被保険者となりません。
 
◆パートタイマーの場合は
 
 1.1週間の所定20時間以上
 2.1年以上引き続き雇用される見込みがあること
 3.年収が90万円以上見込めること
 の条件を満たせば被保険者となれます。
 
◆事業主・代表者は法人との雇用関係はありませんので被保険者になれません。
また事業主と同居している親族も被保険者になれません。
 
◆取締役は原則的には被保険者になれませんが、労働条件によって労働の指揮監督を受けるような立場にあるものは被保険者となれます。
 
【受給可能な日数】
 
一般被保険者の場合…90~300日(条件によって異なる)
短時間労働被保険者…90~210日(条件によって異なる)
 
◆高年齢求職者給付(一時金)
 
基本手当に代えて高年齢求職者給付金が一時金として次表の日数分が支給されます。
 
               高年齢継続被保険者 高年齢短時間被保険者
被保険者であった期間
1年未満           30日分       30日分
1年以上5年未満      60日分       50日分
5年以上           75日分       50日分
 
◆短期雇用特例被保険者の求職者給付(特例一時金)
基本手当の50日分に相当する額が一時金として支給されます。
 
【給付額】
 
賃金日額(被保険者期間として計算された最後の6ヶ月に支払われた賃金の総額を180で除した額)の原則として60%~80%を支給します。
ただし、賃金日額が13,230円を超える60歳以上65歳未満の高齢者については、50%の支給となります。
 
◆上限
年齢区分       賃金日額  基本手当日額
30歳未満        14,520円 8,710円
30歳以上45歳未満 16,130円 9,680円
45歳以上60歳未満 17,750円 10,650円
60歳以上65歳未満 19,350円 9,680円
 
◆下限
        賃金日額 基本手当日額
短時間    3,190円 2,550円
短時間以外 4,230円 3,380円

[066]新裁量労働制

 

平成12年4月1日より、従来の裁量労働制にとは別に新たに裁量労働制を採用できる業務が増えました。その新たな業務とは、
 
【事業運営上の重要な決定が行われる事業場における「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務」であって、その遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が具体的指示をしないもの】
 
とあります。つまり、これによりいわゆる本社機能を持つ事業場におけるホワイトカラーにも裁量労働制が適用できるようになりました。
 
ただし、職場においてこれらを裁量労働制としての対象とするには、労使委員会を設立し、次の事項について全員一致の決議が必要で、かつ決議は労働基準監督署長への提出が必要です。
 
  • 対象業務
  • 対象労働者
  • みなし労働時間
  • 労働時間の状況に応じた対象労働者の健康や福祉確保の為の措置
  • 対象労働者からの苦情処理に関する措置
  • 労働者の同意の取得、不同意者の不利益取扱いの禁止
  • 命令で定める事項
また、労使委員会は次の要件を満たしていなければなりません。
 
  • 委員の半数は、労働者の過半数が所属する労働組合または労働者の過半数を代表する者により任期を定めて指名され、かつ、労働者の過半数の新任を得ていること
  • 委員会の設置については労働基準監督署長への届出がしてあること
  • 委員会議事録の作成、保存、労働者への周知がなされていること
  • 命令で定める要件
裁量労働制は、どちらかというと使用者側に有利な条件であり、労働者保護の立場を取る労働基準法からすれば取り扱いが難しい項目です。というのも、労働時間を管理できるにもかかわらずみなし時間制にし、また指定業務の拡大は長時間労働の実態を覆い隠し不払い残業を合法化する危険性をはらんでいるからです。
 
ちなみに、ホワイトカラーとは事務職、販売職などの製造に直接かかわらない労働者をさしていう言い方です。これに対してブルーカラーとは現場で直接、製造の作業にかかわる労働者を言います。ホワイトカラーは欧米の職場において事務所で働く人が白い襟(カラー=Collar)のワイシャツを着ていたことから生まれた言葉です。

[065]裁量労働制

 

労働といってもその業務の幅は広く、業務の性質によっては遂行を各労働者に委ねる必要がある場合が生じます。そういう業務には「みなし労働」の適用があります。
 
裁量労働とは遂行業務の、手段、方法、時間配分に関して使用者の具体的な指示・監督を要しない業務をいいます。
 
裁量労働制としてみなし労働時間を適用する場合は、次の事項を労使協定で定めて労働基準監督署長に届けなければなりません。
 
  • 命令で定める業務のうち、対象となる業務
  • 具体的な指示をしないこと
  • みなすべき時間
事業所外労働のみなし労働時間に関する規定では「所定労働時間を超える場合」は労働基準監督署長に届出が必要でしたが、裁量労働制の場合の労使協定はすべて労働基準監督署長に届ける必要があります。
 
命令で定める裁量労働の対象業務は以下の通り
 
  • 新商品又は新技術の研究開発等の業務
  • 情報処理システムの分析又は設計の業務
  • 記事の取材又は編集の業務
  • デザイナーの業務
  • プロデューサー又はディレクターの業務
  • コピーライターの業務
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 一級建築士の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
 
【労働基準法施行規則第24条の2第6項】
通常の営業職や事務職はこの制度には馴染まない為、認められていません。
 
なお、裁量労働といっても、労働者の判断に任せられるのは、手段、方法、時間配分のみに限られますから、何もかも自由というわけではありません。労働者として誠実に勤務し、職場の秩序を守ることはいうまでもありません。

[064]みなし労働時間

 

みなし労働時間というのは、労働時間を算定するのに困難なものについて所定労働時間勤務をしたと【みなす】ことをいいます。
(労基法38条の2第1項)
 
◆事業所外勤務の場合
 
報道記者の取材や外勤の営業など事業所外で行われる勤務は、使用者の具体的な指揮監督が及ばないことが多いです。しかしそれでも勤務遂行しなければならない場合、所定労働時間どおりというわけにはいかないことも多いです。そういう時に実際の勤務時間が所定労働時間より長くても短くても、所定労働時間勤務したとみなすことができます。
 
◆裁量労働の場合
 
企業のプロジェクトや設計、研究開発、映画や番組の製作などはその性質上勤務時間をきっちり決められるものではありません。仕事の進捗状態に応じて勤務時間も変化します。その業務に必要な勤務時間が所定労働時間を超えるのが通常である場合も、所定労働時間を勤務したとみなすことができます。
 
平均して労働時間が長い場合は、トラブルを防ぐ意味で、「通常必要とされる時間」を労使協定で定めると良いでしょう。その場合、所定労働時間を超える場合は労働基準監督署長に届出が必要です。
労使協定→必ずしも必要ではないが
労使協定締結したら→届出が必要
「通常必要とされる時間」が所定労働時間を超えるときは、超えた分について使用者は労働者に割増賃金を支払う義務が生じます。
 
通常必要とされる時間は、仕事の状況によって変化するのが普通なので、有効期間を設けます。
 
なお、事業所外勤務であっても、使用者の指揮監督が及ぶ場合は適用になりません。
 
携帯電話等で常に指示がされる場合
グループで事業所外勤務する場合でグループに指揮監督者がいる場合
事業所外であっても、その勤務内容が指示通りであり、勤務完了したら事業所に戻ってくるような場合