[16]医療行為
福祉の現場ではどうしても医療との関わりが必要不可欠である。今回は医療行為について語ろう。
このメールマガジンの読者はおそらく介護者つまり医療従事者ではない方が大多数だろう。あなた方読者諸兄が普段自分の職場でしていることの中には驚きべき事に「脱法」や「違法」なものがあるとしたらどうだろうか?つまり許されないはずの「医療行為」を知らない内に実行しているかもしれないのだ。因みに医師法では無資格者の医療行為には2年以下の懲役または100万円以下の罰金が課される。
医療行為は看護師に任せているはずだし、自分達には関係ない・・・そう反論があるかもしれない。ここで俺ははっきり言っておくが、現場で働く介護者の中に医療行為をした事の無い人間はまずいない。ありえないだろう。そもそも介護者が普通に何気にやっている介助は許されない「脱法」行為であることが少なくない。
あなたが普段職場でしていることが医療行為か否か?ここでチェックしてみよう。さてこの中でどれが医療行為にあたるだろうか?
(1)点滴(2)血圧測定(3)径管栄養の注入(4)痰の吸引(5)吸入(6)内服の介助(7)酸素飽和度の測定(8)爪きり(9)傷にバンドエイドを貼る(10)採血(11)軟膏の塗布(12)湿布の貼付(13)点眼(14)座薬挿入(15)摘便(16)耳掃除(17)口腔内の洗浄(18)ストマパウチ交換(19)褥瘡のカーゼ交換(20)浣腸(21)体温測定
正解は・・・(1)?(21)まで全 部 当 て は ま る 可 能 性 が あ る !
そもそも医療行為の定義とはなんだろうか?
現在の所、医療行為に関しては明確な定義づけが無いのが現状なのだ。極端な話、厚生労働省や医師が判断すれば何でも医療行為になると言わざるを得ない。おかしなことに下手すれば罰則を喰らうかもしれないのに、今まで医療行為については曖昧にされてきたのが現実なのだ。
ここで事情に詳しい人なら「平成18年7月に厚生労働省から爪切りや検温は医療行為とはしないという通知が出たはずだ」と反論があるだろう。下のリンクを参照してほしい。
http://akihaya.karou.jp/kaigohoken/iryoukoui10.html
しかし、この中で認められた「医療行為」にしても条件付で正式に認められているわけではないのだ。解釈の次第によっては都合よく介護者が利用される可能性がある。そもそも上の通知では径管栄養の注入や摘便、吸引などは認められていないが、現実介護職がそれらをしている施設は山ほどある。正直言っていまさら何をと思う福祉関係者も少なくあるまい。
もっとおかしいことはまだある。この通知が出たきっかけはあるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の関係者の訴えがきっかけだった。ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは原因不明の病気で、発症すると筋力がどんどん衰えてやがて死亡に至る治療困難な難病なのだが、末期には痰の吸引がどうしても必要になる。
在宅看護をしているALS患者の家族にとって痰の吸引は日常茶飯事の為にいちいち看護師を呼びつけるわけにはいかない。それでALS患者の関係者が医師法の人間性の無さを非難すると途端に家族に限り痰の吸引が認められるようになったのだ。今でも介護者が施設などで痰の吸引は認められていないが、家族が施設で痰を吸引してもお咎めは無いのだ。
しかし、痰の吸引が必要なのはALS患者だけではない。ALS以外の患者以外でも痰吸引を求められると今度は在宅のヘルパーが痰吸引をしてもいいことになった。まったくふざけたご都合主義もいいところだろう。
最初は看護師と医者以外吸引は駄目だったはずなのに、関係者から非難されるとここまで変わる。これでは医師法は医療従事者の醜い既得権を守る紙切れと言われても仕方あるまい。
そもそも爪切りや内服まで医療行為としたのは先ほども述べたように明らかな医療従事者の既得権だった。しかし、福祉の現場では誰もが承知の上で(中には知らない人もいるが・・・)違法行為をしていた。入所している利用者にどうしても医療行為が必要なら看護師にさせればいい。だが、看護師を24時間体制で雇うことはどこの施設もしたがらないのだ。
もう想像つくだろうが、その理由は単純だ。看護師は当然ながら介護職よりもコストが高い。医療行為をさせるために24時間体制で多くの看護師を雇うとなればその負担は施設にとってかなり重いものだった。そこで、看護師がいない夜間は違法を承知で介護職に医療行為をさせるようになったのだ。
介護職が施設や在宅で医療行為をしているのは医療側も勿論知っていた。しかし、十分なサービスや人材供給ができないのもあり、ある程度は介護職に医療行為をしてもらうのを黙認していた。施設側もコストの面から介護職の医療行為をやらせていた。
自分たちのエゴで違法行為を介護職にやらせておきながら、平然とコンプライアンスだの、医療行為はしないなどと語る。偽善者ここに極まれりだが、犠牲になる介護職はたまったものではない。
もはや今では無意味な議論になったが、以前医療側が介護者側に医療行為を認めない理由について反論をしたい。介護者側が医療行為をするとなると、医療側は必ず「医療の知識や技術が十分ではない人間が医療行為をするのは好ましくない」と言っていた。例えば爪きりにしても、巻き爪になっている場合は医療的知識が必要だと言うのだ。しかし、技術や経験を積めば介護職でも巻き爪を安全に切ることはできる。逆に未熟な看護師などは巻き爪を切る際に皮膚も一緒に切ってしまう人もいる。資格よりも個人の技術や経験が大事なのだ。
もっと言えば、昔も今も医療現場はミスや失策の宝庫だ。しかも医療ミスはどれも致命傷になる可能性が介護者側よりも高い。患者を取り違えて誤った手術をするなど小学校レベルのミスも多い。研鑚が必要なのはどちらだろうか?
エル・ドマドール