[100]選挙
読者諸兄のお陰でこのメルマガもついに100回を迎えることができた。まだまだ語るネタには事欠いていないのでこれからもどんどんメルマガの内容を充実させたい。
さて、世間では選挙のことが話題に上がっている。このメルマガを書いている時点ではどうなるかまだ不明だが、世論調査から政権交代は避けられない見通しだと言われている。今回は社会福祉の世界における「選挙」について語ろう。
今回の総選挙では多くの人々が投票に行き、その割合は7割に達すると予想されている。成人している読者諸兄なら選挙に興味は無くとも、1回くらいは投票場に足を運んだことぐらいはあるだろう。勿論一応形式的に選挙権を与えられている福祉界の利用者も投票をすることはある。
一番オーソドックスなのは直接投票場に行くことだが、外出できない障害者や老人のために選挙管理委員会は2通りの投票を認めている。
ひとつは郵便による投票だ。正式名称「郵便等による不在者投票」だが、これは非常に手続きが面倒。まずは地元の選挙管理委員会に問い合わせて申請書を貰い、申請書に記載した上で介護保険証、身体障害者手帳もしくは戦傷病者手帳を見せなくてはならない。その後選管から「郵便等投票証明書」と請求書が送られてくるがこれで投票できるわけではない。選挙人が署名した上で請求書と郵便等投票証明書を選管に送る。後日投票用紙と返信封筒が送られてくる。これでやっと郵便投票ができるわけだ。詳しいことは総務省のリンクがあるので以下に紹介しておく。http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/yuubin/yuubin01.html
申請が面倒でも窓口に来られない人々に投票の機会を与えるのは立派な制度のように思えるかもしれないが、俺はこの郵便による投票制度は問題が多いと考えている。声高に図々しい権利拡張を叫ぶ人権団体などと同じにされたくないが、これははっきり言って障害を持つ人々から投票する権利を奪う悪法にしか見えない。第一申請書に選挙人本人の署名を求めているが、署名できない人はどうするのか?重度の身体障害者だけではなく、視覚障害者にも署名できない人は少なくない。
そもそも対象者が介護保険の被保険者なら要介護5のみ、または障害者手帳、戦傷病者手帳を持っている人に限られているのも大問題だ。俺はよくこれは問題にならないなと思ってしまう。人権団体が怒りの行進をしないのはどうしてだろうか理解に苦しむ。
対象者がどうして介護保険に限っては要介護度5のみなのか?要介護度5だともはや認知症が進んで選挙どころではない人々も多い。選挙に行きたいという人々はどちらかというと要支援の人や軽度の要介護度の人々に多い。介護度5ぐらいの重度の人ではなくても足などに障害があり投票場まで行くのが難しい人は多い。またたまたまその時期は体調が良くない時もある。身体障害者手帳を持っていてもいろいろな制限がある。ましてや知的障害者がはなから排除されているが、もしかしてお上は「知的障害者には選挙は理解できない」とでもおっしゃるつもりだろうか?知的障害者の多くは選挙の理解自体が難しいかもしれない。しかし、知的障害者も多様なのだ。投票したいという意思を表明できる人もいるのだ。
ご存じの方もいるだろうが、選挙に金がかかるのは候補者だけではない。実施する選挙管理委員会も多額の税金を使って選挙を行っている。財政改革が至上命令な今日、税金の無駄遣いは許されないはずだ。ホテルや民間施設などを使えば学校などを無理やり使うよりも安上がりだったケースもあるし、電子投票システムを導入すればかなり費用が圧縮できるといわれている。しかし、選挙管理委員会は公正と直接投票にこだわるあまりそれらの提案を拒否している。しかし、彼らが公正にこだわるのであれば障害者の投票する権利は尊重するべきではないだろうか?
もう一つ、投票場に行くことが免除される投票制度を紹介しよう。実を言うとこれは前述の郵便投票制度よりももっと問題だ。選挙管理委員会が指定する病院や社会法人の施設などでは投票場に行かなくても施設内で不在者投票ができるようになっているところがある。病院や施設は「公共性のある場所」だからと言うことで施設内で不在者投票が認められているが、これははっきり言うと不正投票の温床だと言ってもいい。
なぜかというと施設内の不在者投票に選挙管理委員会の職員が同席しないため、投票の管理は施設側に任されているからだ。どこの社会福祉法人も病院もひいきの政治家ぐらいは必ずいる。あるいは身内が政治家をしているケースも少なくない。そうなると必然的に施設経営者たちは利用者にある候補者に投票するように有形無形の圧力をかけるようになる。利用者にとってみれば、施設側に世話になっているという負い目は必ずあるものだ。ましてや自分で字を書けない場合、本当は違反だが職員が利用者の代わりに代筆することは珍しいことではない。こうなるとどうしても施設側が推す候補者に無理やり投票する事態が起きてしまう。
このような光景はどこかの宗教組織の選挙協力を連想させるかもしれない。しかし、彼らでも代筆まではしないだろうし、ブースの中でどの候補者の名前を書くかは確認できようがない。だが、施設の不在者投票は利用者に対してそれ以上の圧力をかけることができる。なんせ代筆までできるのだ。もっとひどくなると圧力をかけるどころの話ではないケースもある。認知症などの投票できない利用者の場合、施設側が黙って候補者の名前を書いて投票してしまうこともある。こうなるともう単なる犯罪である。
こんな真似をしても獲得できる利用者票は100ぐらいのものだろうが、地方選挙では馬鹿に出来る数字ではない。時々、義憤に駆られた職員からの内部告発でこのような事態が発覚するが、施設だけではなく選挙管理委員会の責任も大きい。あれだけ公正選挙を標榜するなら、どうして監視する職員を置かないのか?このような現状は北朝鮮と変わらないではないか?
エル・ドマドール
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