【第15回】特別養護老人ホームの実態(4)

2019年3月18日

朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。季節の変わり目は、体力が落ちてきている高齢者にとっては辛いシーズンでもある。施設の中に住んでいて、朝晩の冷え込みが実感できるのかというとこれが案外できるものなのである。窓に映る風景も木々の葉の色づきが視界に入るし、いくら空調が効いていても朝の冷え込みにちゃんと神経痛は反応しているから人間の身体のセンサーみたいでいつも驚かされてしまう。

さて今回は老人ホームにおけるお洒落の話題を提供してみたい。一昔前に、老人ホームに入ると女性でも髪を囚人みたいに短く刈上げられるとまことしやかに噂された時があった。確かに介護する立場になると、髪は短いほうが洗髪しやすいし、ドライヤーも短時間で済むし、整髪も簡単なのは誰でもわかる。しかしながら、皆が同じ刈上げさんではやはり異様な眺めになってしまうのではなかろうか。脱個性か?又逆にごまだらのインディアンの長老みたいにお下げ髪の集団が存在すればやはり笑ってしまうに違いない。

個別ケアだとか、個人の尊厳とかいう言葉が妙に巷に聞かれるようになって来てから、老人ホームで髪を本人の意向と関係なく、短く散髪するということはみられなくなった。そもそも日々の髭剃りや整髪は介護保険上介護として報酬請求できるちゃんとしたケアであるが、理美容という見方をするとなんと個人負担のサービスということになる。だから元美容師さんだった介護職員がいたりして、洗髪後のドライヤーでブローなんかしてくれると正にそれは解釈によれば自費のサービス費を高齢者が請求されてもしかたがないということになる。

カットも考えてみると、多少心得のある介護職員が髪を切るのと、ただ、寝たきりのために頭髪が枕にこすれて毛玉になってくずくずだからと、はさみで適当に切るのとでは全然意味が異なる。ま、切ってもらう立場から言えば、毛玉を切ってもらうにしても、何も考えずにばっさり、じょっきり!ではと誰しもが思うだろうが。

今多くの特別養護老人ホーム内に理美容ルームがある。定期的に月1回とか、2回程度のプロ出張によるカットやパーマ、毛染めのサービスが受けられる。もちろん、個人負担の有料サービスである。理美容師さんの団体によるボランティア活動の一環としてサービスで出張カットに来ている様子を実はシンガポールに出張した時、ある老人施設でみかけた。

施設の中庭の石畳に椅子をたくさん置いて高齢者に座ってもらい、ケープをかけてもらって、20人以上の理美容師さんが一斉にはさみを動かしている様は、まるで、カットコンクール会場のような賑わいで圧巻であった。費用は無料である。一応好みの髪型とかリクエストするとして、それに応えてもらえるのかしら?とも思ったが、北朝鮮(←明らかに偏見)の集団生活を連想させる囚人服のようなユニホームをそこの施設の高齢者が皆様着ておいでだったので本当に刑務所みたいと感想もいいたくなりそうだったので、あえて質問しなかった。せめて手鏡でも近くにおいてあって、仕上がりを本人にみせていたらそうも感じなかったかとも思うが。

再び日本の話に戻るとトレーラーやキャンピングカーを改造した出張美容室というサービスも最近みかけられるようになった。中が美容室仕様に改造してあってシャンプー台も大きな鏡もおいてある。それが老人ホームの駐車場に来て、老人ホームに入居中の高齢者さんたちをお客様にして商売として美容室を開店するのである。

お菓子の出張販売みたいなもんで、高齢者にはなかなかの評判らしい。紫色のメッシュに染めて、オウムを連想させるような斬新なヘアスタイルにご満悦なおばあちゃんをみかけると思わず投げキッスしたくなってしまう私である。費用は奥様が普通の美容室へ行く際の料金とほぼ変わらないようである。

美容室というのは特に女性にとっては麻薬の気分を味わえるような憩いの空間であるのはどんな高齢者になっても多少痴呆があっても変わらない存在と言えよう。美しくなる自分?を鏡の中に確認していく喜びはなにものにも替えがたいのは私だけであろうか。

2005.11.08