[95]介護保険(2)

2018年8月25日

今週も介護保険について語ろう。先週俺は介護保険とは福祉切捨てを目的とした政策だと断言した。そして俺はこうも断言したい。介護保険は何の役にも立たない、何の目的も果たせない最悪の政策だ。なぜ最悪なのか?全国に介護難民を生み出し、適切な介護サービスを提供できないからか?確かにそれもある。しかし、俺が介護保険を「最悪の政策」と非難するのは他にも理由があるからだ。
介護保険は弱者のための福祉切捨て策に他ならない。しかし、だからと言って政府の思惑通りに社会保障費が削減できているかというとそうは言えない。現に社会保障費は増加の一途を辿り、2010年度予算ではなんと25兆円の税金が社会保障だけに投入されるのだ。25兆円と言うと歳出全体の半分近くになる。これは凄い数字だ。言葉にならないとはまさにこのことだ。その割合は40パーセントが年金、35パーセントが医療、介護保険は10パーセントほどだが、医療給付を減らすために介護保険は導入されたはずなのに全く減る気配はない。また知っているように3年ごとに毎回減算の憂き目に遭っているにも関わらず、介護保険給付は上昇を続けている。しかもこれはあくまでも国だけの負担で都道府県、市町村、そして保険料は含まれていない。
例え、福祉切捨てでも社会保障給付を抑えるのはそれなりに大事なことだ。しかし、実を言うと介護保険が導入されてからその目的さえ達成されていないのだ。介護殺人、介護自殺などという言葉を生み出すぐらい福祉制度を破壊しておきながら、かといって社会保障費の増大も防げない。だからこそ介護保険は最悪の政策と言わざるを得ない。これだけ中途半端で何の目的も果たせない介護保険法はかつての治安維持法並の悪法と言ってもいいぐらいだ。治安維持法は日本初の普通選挙と引き換えだったが、介護保険は何もない。その意味でも最悪だ。
施行して9年経つ介護保険はその狙い通り福祉の切捨てを果たしている。しかし、それにも関わらずどうして介護費用増大を止められないのか?一番納得できてありきたりなのは高齢者人口の増加だろう。確かにそれはある。しかし、高齢人口の増加ぐらいあらかじめ予想ついていたはずだ。俺は介護保険のシステム自体に予算が水ぶくれする要因が含まれていると主張したい。
介護保険は費用が膨らみやすい「肥満体質」を元々抱えていた。いくら政府がダイエットを強制しても、どうしても介護保険は超え太りやすい。その肥満体質とはなんだろうか?俺の知り合いのケアマネージャーがこんなことを言っていたことを思い出す。
「ケアマネなんかいないほうがいい。その方がもっといい介護ができる」
彼女は介護支援専門員に関わらず耳を疑う発言をした。俺は驚きながらどうしてそう思うのか聞いた。「単純な話よ。私たちケアマネが貰っている給料を実際介護に携わる人に回したほうがもっと人を雇えるじゃない。残念ながらケアマネがいてもいなくても介護の質には関係がない。それが現実よ」あまりの大胆な発言にさすがの俺でも戸惑いを隠せない。「しかし、ケアマネは法律で設置義務がありますよ。その意味では存在価値があるのではないですか?」「確かにそうよ。法律で設置義務があるから、ケアマネは必要よ。でも、ケアマネがいない措置時代の時と比べて介護の質は上がっているわけじゃない。現に毎月利用者やその家族にケアプランを渡しているけど、殆ど読まずにサインしているじゃない」
あまりにも大胆な意見だが、介護保険の「肥満体質」が何を意味するのかよくお分かりいただけたと思う。だが、肥満体質はそれだけではないのだ。
介護保険施行初期の頃、要支援1や要介護1~2のような軽度の利用者の介護サービス濫用のために介護保険財政がかなり悪化したことがある。どういうことかというと、介護保険はどうしても保険料を負担するために利用者に「利用できるものは利用しないと損だ」という感覚を与えてしまう。措置制度のサービスは税金での公的支出だったためにそういう「醜い権利意識」は生まれにくかったところがある。しかも事業所も利用してもらわないと儲からないからわざわざ利用者を掘り起こして、利用させることが少なくなかった。つまり必要のない人に介護サービスを与えるという、皮肉極まりない事態が発生してしまったのだ。
しかし、こんなことをやられては政府や保険者はたまったものではない。2006年の介護保険改定で生活援助を1,5時間に制限、要支援者のサービス利用について大幅な制限を加えたのだ。しかし、そのおかげで今度は本当に必要な人にまでサービスが十分行き渡らなくなり、介護自殺や介護殺人を招いている遠因になっている。
このように介護保険にはどうしても肥大化しやすく、本来の目的である歳出削減を妨げているところがある。厚生労働省はHPなどで「利用者は節度ある利用を心がけなければならない」とモラルを呼びかけているが、事業者や利用者にとってはモラルよりも自分たちの利益が優先のようだ。しかし、それは保険方式にすれば無理もないことなのだ。
エル・ドマドール
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