先日、この炎天下、隣にマツダのロードスターが走っていた。渋滞していることもありドライバーは帽子もかぶらず汗だく。直射日光は遠慮なく降り注ぎ、人事ながら熱中症を心配してしまう。しかし、そんな心配をよそに、信号が変わるや否やロードスターは颯爽と走り去っていった。
オープンカーの歴史は古く、もともとクルマは屋根が無いのが正しい姿であって、しかし雨や雪の日、風の日があるので止むなく屋根をつけた、というのが正しい。したがって、オープンカーの幌は雨が止んだら傘をたたむように、幌を上げておくのがこれまた正しい。
クルマというのは、軽いボディにさほど大きくないエンジンを積み、しかし良く回るエンジンを目一杯回して、軽快に走り回るのを至上の楽しみとする。これをライトウェイトスポーツと称するが、クルマの楽しみというのは本来こういうものなのだ。重く、重心を高くしてしまう屋根などいらない。
戦後、1960年代には世界中にライトウェイトスポーツと呼ばれるクルマが一世を風靡した。日本でも、ホンダS800やフェアレディSRなどオープンカーは黄金期を迎えた。
しかし、1970年代に入るとアメリカでの安全基準と排気ガス規制が強化され、屋根のないオープンカーは横転時に危険であるとされ、エンジンは排気ガス規制のため骨抜きにされてしまい、いつしかその姿を消していった。日本車もアメリカは大きなマーケットであったため、アメリカで売れないものを作るわけにはいかなかったのだ。
しかし、古代より馬を友としてきた人類にとって、風を感じて走る楽しみは本能ともいえるのか、小さなオープンエアースポーツカーへの憧れは火を消すことは無かった。1980年代マツダのエンジニアたちは「ミアタ」という名前でライトウェイト、FR駆動(前置きエンジン後輪駆動)、2シーターのオープンカーを世に出した。これがユーノスロードスターである。
ユーノスロードスターの爆発的なヒットに、各メーカーのエンジニアたちは勇気付けられたのであろう、その後にはトヨタやニッサン、ホンダなども続々オープンカーを発売するに至る。
現在では、ホンダS2000、トヨタMR-S、ニューソアラなど高性能で個性的なオープンカーがちょっと高いが金さえ出せば買うことができる時代になった。これは喜ばしいことではある。
ところで、一口にオープンカーといっても、じつは種類がある。幌が布製のもの、あるいは金属のもので、電動あるいは手動でトランクにすっぽりおさまるものは通称コンバーチブルという。
同じ形式でも、センターピラーなど支柱を残して横転時に備えたものをカブリオレといって区別する。ゴルフのオープンカーはこのタイプで、コンバーチブルとはいわない。
さらに安全性を高めたものに、アメリカ車やフェアレディなどに見られるTバールーフ、つまり屋根が部分的に取り外せるもの。ポルシェのタルガトップもこのタイプだ。
もっと簡易なもの。それはサンルーフだろう。屋根に窓をつけ、風と太陽と、夜空を手に入れることができる。
しかし、いずれにしても正統派といえば幌タイプにとどめをさす。
ちなみに、幌の変わりに金属製のメタルトップをかぶせたモデルとハードトップという。一昔前には国産車もハードトップ全盛だったが、セダンに対してハードトップという言い方をしていたが、幌(ソフトトップ)に対してのハードトップであるという解釈が正しい。
オートバイのことを鉄馬という。オープンカーの基本コンセプトも『人馬一体』。どうも人間は風を感じて走るのが好きな生物のようである。