[13]心の傷(7)
何度かチャイムの音が鳴り響きました。数えて居なかったので顔を上げたとき今何時限目なのかがはっきりと分かりませんでした。空の色は相変わらず、春色の薄い水色でした。私はトイレの壁を背もたれに、一つ溜息を付きました。
そろそろ水分が無くなって来たのか、涙は自然と止まってきました。行かなけりゃ、早く教室に戻って皆に「こいつは怖い奴だ」と思わせなければ。何故か私はそんなことを考えていました。格好だけでもそんな風にしたら怖がられる。怖がったら、誰も喧嘩売って来ない。苛められたりなんてしない筈だ。実際に、周りの子たちは皆派手なのだから。
行かなければいけないというのは自分でも十分分かっているつもりだったのに、重い腰は一向に上げられないままでした。行こうと思ったらまた涙が溢れて来て、腰を浮くのを止めると自然と止まっていく、この繰り返しで。
大きなチャイム音が学校中に響きます。今は何時限目なのかが分かりません。が、その後音楽が流れ、放送が入りました。給食の時間です。
あれから三時間分ずっとトイレに居たままだったのか、と私は内心びっくりしましたが、それでも腰は上げられないままでした。私はふと、ここまま消えてしまったらどれだけ楽だろう?
と考えるようになっていました。この胸の痛みから逃げれるのなら、消えるのもいっそ怖くない。頭の中に友人の顔は一つも浮かんできませんでした。浮かんで来たのは、姉の顔でした。背を押してくれた姉。いつも一番に自分を心配してくれる姉。誰よりも大好きで大事な姉ちゃん。
「飯食い係って書かれたよ」なんて言ったら確実に姉+不良軍団ヘッド&その手下たちが1年2年の後者に押しかけてくるかも。それはやばい。
姉の事を考えていると、少しずつ頭に余裕が出てきてこんなことまで考えれるようになってきました。
私は少しずつ、壁伝いに立ち上がりました。
しろいぬ万呼