[12]心の傷(6)

2018年8月5日

私はガタンと大きな音を立てて席を立ちました。椅子を蹴り上げたんです。Kは驚いて拍子抜けした顔で見ていました。私の顔が気の弱そうな人間にでも見えていたのでしょうか。
私はそのままKに近づくと胸倉を掴み上げて「喧嘩売ってんのか!?」と怒鳴り散らしてやりました。するとKは慌てて「おお、俺じゃない!こいつが書けって言ったんだ!」とおどおどしながら、私の友人「だった」4を指差しました。書いていたのは思いっきりKです。漫画のような展開ですよね。
4もまた驚いていました。私は小学校時代、男っぽいながらも一度も喧嘩をしたことが無かったのです。元々喧嘩や荒っぽいことは嫌いでした。昔は姉とも良く喧嘩をしていたので、「喧嘩せずに仲良くやればいい」と気楽な人間でした。4は保育園の頃から一緒だったので、その事は分かっていたと思います。実際、良く一緒にゲームをして遊んでいました。大棒たちと一緒にも。
きのっちも驚き、それが生徒会副会長の姉を持つ私だからでもあるのでしょう。「どうした」と声をかけて来ました。私は振り向くと、表の紙を持って皆の視線を浴びながら教壇までずかずかと歩いて行きました。「書かれました」と一言言って紙を教壇に叩き付けました。
私が客観だったら「威勢の良い子だ」と思うその行動です。けど主観を持つのは私でした。私はこの時、初めて自分が弱く、友人だと思っていた人間からは友人だと思われて居なかったことを知りました。
泣きそうになりました。考えたくないのに頭の中を渦巻くそれは初めての感覚で、どうすれば良いのか全く分からず、先生に小声で「トイレ行ってきます」と伝えて教室を出ました。怪しまれないように、ドアを思いっきり強く閉めました。
私は四組だったので、トイレは五組の先を行ったところにありました。私は泣きそうになる衝撃を喉元寸前まで押さえつけて、五組の前を早足で通り過ぎて行きました。運悪く窓が空いて居たので、五組の生徒に丸聴こえだったのでしょう。驚いた顔の生徒がこちらを見ていました。中には小学校の友人もいました。大声を出したのが私なのが信じられないんでしょう。
私は大声で笑うことがあっても、叫んだり泣いたりしたことは小学生の時は一度も無かったんです。廊下で走って転んで左手首を骨折した時も、近くに友人が居たということを理由に泣くのを堪えて、先生に「泣かんならそんなに痛くないんかな?」と言われるくらいの、ただの強がりでした。
トイレに付くと走って一番最後列の個室に入りました。窓が空いていました。便器の蓋に腰掛けて空を眺めました。頭の中を、先ほどのように渦巻くものが口の中から出てしまいました。膝を抱えて声を殺して泣きました。
しろいぬ万呼

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