第1回 巨人優勝の憂鬱

2020年2月11日

今年ももうこんな季節になってしまった。日本シリーズだ。野球は好きだが今年のシリーズはなんか盛り上がらない。シラけている。ON対決をあおったのが良くなかったのか。アンチ巨人ファンというか残り10球団のファンは納得しまい。でも根本的に盛り下がる原因がある。まずはダイエー自身の経営の問題。「野球なんかやってる場合か」という声が内外から聞こえてきそうである。経営再建のためにドン中内功自身が引退を表明したばかりだ。松坂の不祥事もプロ野球全体への逆風になっているかもしれない。でも一番の原因は巨人にあると思う。

 「優勝をカネで買った」今年のプロ野球ファン心理の奥底に沈殿しているのはこの思いではないだろうか。もちろんプロなんだから札束でいい選手を集めるのは悪いことではない。悪いことではないんだがやりすぎるとやっぱりまずい。そしてこの感覚は巨人ファンにこそ大きな後ろめたさとなっているんじゃないだろうか。だから盛り上がらないんじゃなくて盛り上がれない。優勝を決めた試合の後、電波少年やガキの使いといった人気番組をつぶしてまで優勝特番を急遽流し続けた身内根性も気持ち悪かった。うがった見方をすればあのぶっ通し特番はファン心理の奥底に沈殿するこのモヤモヤを意図的に消したかったからではないか。

巨人の若手生え抜きにはいい選手がいる。仁志・二岡・松井・高橋・上原など他球団のファンだってその力は認めざるを得ないし、性格も良さそうだ。でも清原・マルチネス・江藤・工藤といったリーグの顔や大物を次々と金の力で集めたのは感心しない。クリーンナップとエースのスペアを持ってる球団はそりゃ強いはずだ。優勝がカネで買えるのならますます日本の野球がつまらなくなる。

僕たちがスポーツを見て感動するのは、「そこに予測し得ない何か」があるからだろう。紙一重のところで知力や体力を駆使して勝負するからこそ、思ってもみなかった結果に驚き、そして感動する。「野球は筋書きのないドラマ」のはずである。ペナントレースのシナリオを金で書き替える球団が出てきたら、その時点で僕たちが期待する「スポーツの本質」はなくなってしまう。昨年の中日優勝が盛り上がったのは、圧倒的巨人優位のはずのペナントレースに、中日快進撃という「筋書きのないドラマ」を見たからではなかったか。もちろん巨人だけが悪いわけじゃない。むしろ巨人人気におんぶしている11球団の方が問題かもしれない。なぜイチローや佐々木が日本を出なければならないか、12球団全部がまじめに考える時期にきている。

そしてこの「カネで何とかなる」「やったもん勝ち」「深く考えなくてもいい」「自分が良ければいい」「問題は先送り」といった考え方が、球界だけでなく経済・政治・金融、さらに日本全体に蔓延している。これこそが巨人優勝の本質的な心地悪さなのではないか。プロスポーツがつまらない国は、国家国民自身もつまらないのだ。

2000.11.01