第9回 銀行税(外形標準課税)について

2019年12月10日

銀行業界が石原新税に対して法廷の場で争うという。株主の手前訴訟せざるを得まい。でも石原知事の打ち出した、いわゆる銀行税には反対だ。自分がこの業界にいるから言うわけではない。この種の広く薄く取る税には賛成だし、石原は個人的に好きだが、どうもやり方が気に入らないのだ。

この騒ぎで一番僕がいやだなと思ったのは石原氏本人に対するものと、この議案をほぼ全会一致で可決した都議会に対するものに分かれる。石原知事曰く「銀行は公的資金をいっぱいもらってるから税金とっていいんだ。そうしないと福祉に回す金もなくなる」…。

 論理的に破綻しているし、これじゃチンピラの脅しと一緒だろう。まず、公的資金を注入してもらっている銀行とそうでない銀行があるし、もらっていたとしてもそれは国の議決なりで決めた話であって都レベルで返してもらう筋の金じゃない、さらにいえば公的資金は返す金だが税金は返ってこない金。

もっと腹立たしいのは福祉予算を人質にとっているということ。都にはいろんな予算があるのになぜ福祉だけを言うのか。さらにそんな勝手を全会一致で通した議会。この両者に共通するうさんくささは「限度を超えた人気取り」ではないかと思う。「票が集まればよい、とにかく金が入ればよい」という姿勢が嫌いだ。そこには徴税原則も思想信条も感じられない。何事も「全会一致」には用心すべきの典型である。

といっても世の中の人は概ねこの政策を好意的に受け入れているらしい。直後のニュースショウの調査では9割以上の支持があったとか。となれば堕落しているのは選挙民の方か。石原はすべてわかっていて言ったとしたら、ばかにされているのは議会と選挙民自身。

今回の徴税については銀行にとってそれほど痛くないし、その気になれば顧客に転嫁できるだろう。都知事としては嫌われ者の銀行を突破口にしてとりあえず既成事実を作り、それを他業種(将来的には全業種)へ拡大して税収の安定を図りたいというのが腹の中の筋書きだ。大蔵も虎視眈々と便乗するタイミングを見ているはずだ。

朝三暮四とはちょっと違うけど、銀行だけを痛めつけたつもりでいたら、いつのまにかパパの会社やスーパーやコンビニからも新税がとられるようになっていた。しかもその徴税分が給料や商品の価格に転嫁されていた…なんてことにならないように懸命な都民の皆様には気をつけていただきたいものだ。

と、ここまで書いたのが10月10日。その後ホテル宿泊者への課税や、東京都以外からの通勤者、パチンコ店への課税検討などが11月後半になって発表された。上記の銀行税も含めて、これら新税の共通点は「納税者に理解を求めなくても良い」という点だ。都民以外、あるいは銀行業界という味方のない存在(パチンコは別かも?)を狙い打ちした新税は一番反対するであろう当の納税者が異を唱えられない。果たしてこのやり方は正当なのだろうか。

いや正当かどうかは別として、「自分のフトコロさえ痛まなければOK」として銀行税を信任してしまった選挙民のレベルが問題なのだ。数年に一度のお祭り騒ぎにタダ乗りして、選挙事務所へ酒や食事をせびりにいき、その対価として何十年も同じ政党や候補に票を売り続ける連中と同じである。

民主主義や普通参政権が成立する最低の前提は「少なくとも過半数の選挙民が良識ある判断と行動ができること」である。今の日本の状態はこの「過半数」という数値を相当割り込んでいるような気がしてならない。

「政治が悪い」ということはない。「選挙民が悪い」のである。そしてこれを意図的にすり替えて、庶民のガス抜き用ヒール(悪役)を量産しているのがニュースショウ(ニュースではないニュースショウ)である。決して庶民ではないキャスターが庶民のフリをしている。カラクリは単純な方がだましやすいのだ。このマインドコントロールから抜け出すのは結構難しい。

2000.12.03