第17回 「学生さんには金がない」か

2019年12月28日

携帯電話のキャッチコピーである。学生が洗車機で頭を洗うあのCMだ。この会社は学生に限り通話料金を半額にするとしている。いわゆる「学割」で、半額といえば50%引きである。いくらスーパーやディスカウンターががんばってもなかなか半額にはならない。なんと景気のいい話だろうか。

学生時代、「学割」の恩恵を受けたものといば、国鉄料金しか思い出せない。学校で証明書を発行して、年に1回の帰省料金の節約にあてたものだ。それでも半額なんて気前のいいものではなかった。

 「学生さんは経済的に恵まれていないけど、苦労してでもしっかり勉強してほしい、それを糧にして、実社会でより良い仕事をして社会に還元してほしい」そんな意味が当時の学割にはあったと思う。

貧乏学生だった僕はこの学割携帯のCMを見るたびに気分が悪い。携帯電話に半額にも及ぶ学割料金を設定しても、このディスカウント分はいつ社会に還元されるのだろうか。今の学生なんて、可処分所得の額では相当金持ちじゃないのか、学割はかなり公共性の高い生活必需品にこそ設定されてしかるべきじゃないのか、学生に安くした分は大人への価格転嫁じゃないか、なんで大人がガキ連中のヒマなおしゃべり代を負担しなくちゃいけないんだ…。

国鉄の帰省切符を買うたびに、世間様に対して何となく申し訳ないような気がした。「学割でお願いします」って言うときは無意識に小声になった。携帯の「ガク割」には、この言葉が持っていた古き良き時代の社会の暖かさが微塵も感じられない。むしろ全く逆の意味を与えてしまった。

「今や携帯電話は固定電話回線を抜くほどの普及率だから必需品。学割があったっていいじゃないか」という反論もあるかもしれないが、この学割の対象には中学生も入っている。学生保護でも支援でもない。携帯はガキのオモチャだ。あるのは「売らんかな」のマーケティングだけである。

バブル崩壊以降消費の主役は子供である。カネを使えるのは子供だけ。マーケッターたちはこいつらの財布を狙っていろんな商品を出す。マツキヨが化粧品を半額にして、ヤマンバどもが街にあふれるのは勝手だが、携帯はまずい。なんで大人がここまでガキに媚びなきゃならないんだ。不当廉売やダンピングで訴えられないだろうか、などと本気で考えてしまう。

実は銀行の融資にも学割がある。一般的に「学資ローン」と呼ばれるものであり、こっちの方が携帯より1000倍マトモな商品である。政策的配慮から無担保にもかかわらず他のローンに比べてかなり金利が低い。対象資金は、高校生以上の学資が主であり、本来ならば授業料や下宿費・書籍代などにあてられる融資である。といっても別に領収証などを要求するわけではない。せいぜい学生証の写しか在学証明(大学の場合)程度を用意すればよい。予備校生でもOKだ。

就学中の子供がいる場合、車を買うとか家を直すとか、旅行に行く、など銀行のローンを使用する際に、まず子供の学資だという理由でローンを借りればよい。利率の面ではもちろん、長期の返済や、商品によっては学校卒業後の返済開始も選択できる。この裏技を知ってる銀行員は意外に少ないし、知っていてもみすみす安い商品を無条件に売り込むほどバカじゃない。

なじみの銀行員に「ちょっとお金を借りたいんだけど…」と相談してみてはいかがか。「お宅に就学中のお子さまはいらっしゃいますか?」という質問がかえってきたなら、そいつはかなりデキるし、あなた自身も上客ということだ。もっともこの会話が成立する確率は1%もないと思うが。もちろん融資する相手は学生本人ではなく保護者である。

「学生さんにカネはある」けど「学生さんの親にはカネがない」のだ。だから本来の学割をやりたければ、子供がいる親の携帯電話を半額にするのがスジである。もっとも子供の携帯電話代はほとんど親が払うらしいが。

ということは・・・。これはこれでいいのか。でもやっぱりなんかおかしい。

2001.02.04