第20回 もうひとつの日本シリーズ
今週はお休み。代わりに昨年のボツ原稿の中からひとつ選びました。書いたのは平成12年10月18日です。
―桶川拝―
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「巨人はカネで優勝を買った」と書いた。裏付けになるかどうかわからないが、某新聞社のサイトで見つけたプロ各チームの選手年俸総額を今シーズンの勝ち星数で割る、つまり各球団1勝あたりいくらかかったかを見ていくと以下のようになる。引き分けについては再試合制度があるセリーグは考慮せず、パリーグは0.5勝と換算した。年俸総額は言うまでもなく2軍も含む(単位は万円:勝)。
年俸総額 今期平均年俸 勝ち数 1勝あたり年俸総額
1 日本ハム 155,150 2,675 69.5 2,232
2 ダイエー 182,600 2,945 74 2,467
3 ロッテ 160,530 2,867 65 2,469
4 広 島 162,570 2,622 65 2,501
5 近 鉄 151,110 2,437 59 2,561
6 オリックス 171,840 3,242 66 2,603
7 ヤクルト 190,440 3,228 66 2,885
8 阪 神 178,180 2,828 57 3,126
9 西 武 224,960 3,688 71.5 3,146
10 横 浜 221,895 3,414 69 3,215
11 中 日 233,140 3,822 70 3,330
12 巨 人 354,731 5,457 78 4,547
1勝をいくらで勝ち取るか、これは経営の問題であるが、プロ野球の現場で言えば監督やコーチの力量を示すと思う。1勝あたりの年俸額が低い=お買い得の選手をこき使っている球団、成績のわりに給料が少ない球団、安月給でがんばる選手がいる球団、すばらしい管理スタッフを持つ球団・・・いろいろな見方はあると思うが、経営の世界では最小のコストで最大の効果を上げるのがプロだ。
案の定巨人が最下位で1試合勝つのに4千5百万円以上かかっている。逆に一番は日ハム、1勝2千2百万円、さすが優良企業、球団経営も経営原則に則っている。意外なのは2位のダイエーで西武の3/4のコストでリーグ優勝だ。1円を争うスーパーの経営感覚が球団経営にも生きるのか。もしかしてホントにカネがないのか。これこそ強い球団だ。そういえば今年のダイエーにスターは見当たらないな。
セリーグチームが相対的に下位なのは、興行収入が大きいから余裕があるのと、やはりダントツ巨人に引っ張られた面がある。それにしても巨人、強いはずである。年俸総額では今期約6億円増、2位に15億円近い差をつけてぶっちぎりのトップ。巨人首脳を企業に例えれば、売上はでかいけど赤字も垂れ流しの瀕死の大企業という感じ、どっかの保険会社みたいなもんだな。
最小のコスト(年俸総額)で最大の売り上げ(勝ち星)をあげるべき経営者の目で見れば、日ハム大島さんがベスト監督、次いで王さん、セでは貧乏球団の広島がよくがんばったけど監督はクビらしい。さぞかし無念であろう。阪神は巨人と似た傾向、野村IDも落ちたか。
でも広島とて年俸16億のうち前田と野村で4億5千万円だ。オリックスは17億円のうち5億円以上をイチローひとりに払ってる。さすがサラ金、あきらめるとこはあきらめて、とれるとこからとことんとる。イチローもさぞかし居づらかっただろう。
表を見る限り、やはり「巨人はカネでペナントを買った」と言われても仕方ないだろう。去年優勝できなかったのが不思議。斉藤・槙原・桑田・ガルベスで1セット10億円也。このセットがオリックスにそのまま移籍すれば、イチロー以外クビだ(もっともイチローは日本から出てしまうらしいが)。ますます巨人は不良資産をかかえた某大銀行に似てきた。でも巨人は選手をクビにできるけど銀行は債権放棄も従業員のクビも飛ばせない。という点で銀行の負け。
管理者が管理者たる技能も戦略も持たず、ひたすらブランドと資本投入と一部の兵隊のがんばりで表面だけを繕う…というのは某球団固有の問題ではなく日本の社会・企業そのものである。
巨人だけを責めるつもりはない。むしろ巨人も日本プロ野球界を背負って大変だと思う。ナベツネさんとしては「巨人のおかげでプロ野球人気がある。Jリーグを見てみろ。それにプロスポーツは売上(勝ち星数)で競うもんだ。夢を売るのがプロスポーツだからコスト云々は度外視だ」とでも言いたいだろうな。
なんか筋が通ってそうだが、ペナントに夢を見れたのは一部のおめでたい巨人ファンだけではなかったか。カネで書いたシナリオに夢はあったか。あらためて言うが日本の野球がつまらないのは球界全体の問題だし、国の問題だ。
ということで、庶民は巨人でなくダイエーを応援しよう。優勝セールもあるし。札ビラを切れるお金持ちは巨人を応援しろ。そして働き者の貧乏人は、セ・パのベストROA(リターンオンアセット:経営効率のこと)、日本ハムvs広島で、もうひとつの日本シリーズ実現を訴えよう。双方選手層は薄いから3回戦勝負で十分だ。働き者の選手達が見せる技と力、名監督・名コーチの玄人受けするであろう絶妙な采配、観客はハングリー精神とは何か、プロスポーツの感動とは何かを知るだろう。冗談じゃなくこれこそもうひとつの、そして真の日本シリーズだ。
2001.02.25